【フィルター】
フィルターを通せば大丈夫。
何も恐れることはない。
そう人々は言う。
本当にそうかなぁ、と思う。
フィルターにそこまでの力があるかなぁって。
巫女としてみんなを守らなきゃいけないのに。
みんなは私の意見を聞かない。
そして私の思ったとおりになって。
建物内は阿鼻叫喚になって。
だから言ったのに。
ゾンビにフィルターをかけたところで。
人間には戻らないって。
ま、いっか。
私には関係ないし。
それに。
そもそもこのゾンビは。
私が作っちゃったみたいなものだし。
【仲間になれなくて】
ごめんな。
仲間になれなくて。
俺だってずっと一緒にいたかった。
けど、駄目なんだ。
今回ばかりは。
約束したのにな。
どちらかが死ぬまで一緒にいようって。
いや、もしかしたら。
お前はまだ生きているのかもしれないけど。
肉体は動いてるし襲ってもくる。
まあ、だけど。
俺はまだやりたいことがあって。
なんというか。
「ゾンビになったお前の分まで生きるよ」
だって死んだらお前のことを思い出せないし。
【雨と君】
雨と君は水と油。
雨でも傘をささない君は濡れない。
「今日も嫌われてるね~」
僕が言うと君はむっとする。
異世界から来た君をこの世界は受け入れない。
それでも、僕は。
そんな君が好きなんだけどね。
【誰もいない教室】
誰もいない教室に僕は立つ。
彼女の机の上には大量の落書きがあった。
筆舌しがたい罵詈雑言。
僕はそれを黙って消す。
彼女が登校して来る前に。
いじめられているのはわかっている。
そして僕か助けられないことも。
僕ができるのは机の落書きを消すだけ。
だって彼女には同じ道を歩んで欲しくないから。
僕のように幽霊になって彷徨って欲しくないから。
【信号】
トントントンツーツーツートントントン。
窓から室内に信号機の黄色が光る。
安いアパートの深夜二時、俺は布団の中にいた。
俺は数年前に流行った曲を思い出す。
トントントンツーツーツートントントン。
SOS、助けて。
信号機を使って誰かが救難信号を出していた。
けれど、俺は動かない。
助けられるわけがない。
夢を追いかけ上京し、何者にもなれなかった俺が。
窓の外では怪獣とヒーローが戦っていた。
俺の夢見たヒーローが。
信号機は相変わらず光っている。
助けを求めている。
俺は目を閉じ、見ないフリをした。