【夢じゃない】
夢じゃないからやるしかない。
夢じゃないから生き返れない
夢じゃないからやり直せない。
夢だったら、良かったのに。
【心の羅針盤】
仕事を辞めた。
漫画家になりたかった。
子供の頃からの夢だった。
仕事を続けながらもできる。
そう周りから言われたけど。
心身を疲弊して帰宅する毎日に。
漫画を描く余裕なんてなかった。
このまま死んでいくんだなって。
悲しくなって夜に泣いて。
そこで自分の気持ちを知った。
これからは心の羅針盤を持って生きていく。
ごめんね、かあさん。
【またね】
「またね」
それが君の最後の言葉だった。
明日から夏休みだね、なんて。
浮かれた気分で通学路を歩いていた。
僕は朝顔とか工作とかで荷物がいっぱいで。
君はランドセルだけを背負っていた。
突き当たりで僕らは別れた。
僕は左で君は右。
そのあと君はトラックでひかれて。
病院に運ばれて助からなくて。
もう二度と、会えなくて。
「そんなことないよ」
君の声がした。
姿は見えないけど、君の声がした。
「こっち」
そう言われて追いかけて、僕の目の前にトラックが。
【泡になりたい】
人間を殺すように。
そう渡された短刀が重い。
魔法の薬のおかげで。
人魚から人間になれたのに。
最初の仕事が殺人だなんて。
「人間は多くの魚を殺した」
長老たちの言いたいことはわかるけど。
あたしはあたしだし。
好きな人を殺すくらいなら。
あたしは泡になりたい。
【ただいま、夏】
数年ぶりに帰国した。
仕事が忙しく帰る機会を失っていた。
ビデオ通話で顔を見て話せるから必要もなかった。
「墓参りくらい」
母に言われて今年は仕方なく帰ってきた。
毎年最高気温を更新している日本もやはり暑かった。
纏わりつく湿度に汗が垂れる。
空から降るような蝉の鳴き声に暑さが増す。
けれど、懐かしさもあった。
四季がない国でずっと過ごしていたから。
「ただいま、夏」