【熱い鼓動】

感じる。
熱い鼓動を感じる。
君の温もりが。
凍ったすべてを溶かして。
俺の中に入ってくる。
化け物になってしまった俺の中に。
なぜ忘れてしまったのか。
なぜ呑まれてしまったのか。
わからない。
いや、きっと。
俺が弱かったから。
君の突き刺した短刀は。
俺を人間にして。
息の根を止めた。
泣かないで。
どうか泣かないで。
君は悪くない。
だって、君はこれから。
俺の代わりに化け物になるのだから。

【タイミング】

「重要なのは、タイミングです」
先生は言う。
大縄飛びも勉強も進学も結婚も。
これからの人生も。
すべてはタイミング。
六年しか生きていない僕が。
これから死ぬのも。
タイミング。

【虹のはじまりを探して】

五歳の息子がいなくなってから数年が経った。
警察の捜査も虚しく未だに手掛かりすらない。
「虹のはじまりを探してくる」
そう言って消えた息子。
虹を見るたび、私ははじまりを探している。
触れることのできない、はじまりを。

【オアシス】

この世界にオアシスなんてない。
どこも砂漠で戦い続けるしかない。
信じたあいつは裏切って、
信じたあの子に売られてた。
世界はずっとひとりぼっち。

【涙の跡】

涙の跡を辿っていくと人間の子供がいた。
親が殺されてしまったとか。
「可哀想に」
思ってもないことを口にする僕に子供は抱きついた。
振り払おうと手を上げ、やめた。
天使にすがるなんて。
傲慢な人間だ。