【届かないのに】
どれだけ書いても。
どれだけ売れても。
この物語はきっと。
君には届かない。
凡人と言われながら。
来る日も来る日も書き続け。
ようやく小説家と名乗れる日。
君は遠くへ行ってしまった。
秘めた想いは秘めたまま。
君には届かないのに。
今日も僕は書いている。
【記憶の地図】
おかしい。
どうしてこの先が行き止まりなんだ?
昨日までは確かに続いていたのに。
おかしい。
一日歩き回ってこの街の地理を頭に叩き込んだ。
それなのに。
記憶の地図にないことばかり起きている。
この街は変化している。
少しずつ、けど確実に。
いつになったら出られる?
そういえば。
ずいぶんと飲まず食わずで歩き回っているような。
あれ、俺はこの街に。
いつからいるんだ?
【マグカップ】
「コーヒー入れてきたから、適当に取って」
そう言って私はテーブルの上にお盆ごと置いた。
オフィスにいたみんなが集まってくる。
それぞれがマグカップを取っていく。
「ミルクある?」
先輩に言われて私は慌てて給湯室に戻った。
コーヒー嫌いのあの人が口にしないのを確認して。
あとどれくらいだろう。
あの人が苦しみだすのは。
毒入りクッキーはみんなで食べて。
解毒入りのコーヒーを飲んで。
早く早く。
この世界から消えてくれ。
【もしも君が】
もしも君がいなければ。
こんなにも苦しまなかっただろう。
もしも君がいなければ。
明日に希望を持てただろう。
もしも君がいなければ。
俺が世界を滅ぼすこともなかったのに。
【君だけのメロディ】
これは君だけのメロディさ。
他の誰にも聞かせてことはない。
これまでも、これからも。
ふっ、そんなに赤くなっちゃって。
周りから見たら僕が恥ずかしいよ。
もちろん。
最後まで聴いてくれるよね。
逃がす気もないけど。
ってあれ、もう終わり?
案外、怪獣も弱いものだね。
僕の演奏に耐えきれないだなんて。
覚えておきなよ。
音もまた、凶器になるってことを。
……死んじゃって聞こえないか。