#通り雨
さんさんと照る太陽に対抗するかのように激しく雨が降ってきた。しかしその雨は温かく、全身ずぶ濡れになってもなぜか不快感を感じず、むしろ爽快感さえ感じた。
私は水滴が滴る髪をかきあげ、鼻歌を歌い始めた。 不思議と笑みが零れていた。
#空から見える景色
しんしんと雪が降っている。私は雪を踏みしめながら涙いっぱいに泣きじゃくる。
ポツポツと雪の中を沈んでゆく雫が、嗚咽が、全て雪の中に吸収されていく。
雪が降るその空を見上げてみる。私の中に吸い込まれてゆくその結晶はいつもより形が鮮明で、とても綺麗だった。
暖かい水滴が頬を伝い、私は呆然と立ち尽くしていた。
#形の無いもの
形の無いものって、なんでしょう。輪郭がぐにゃぐにゃしていて、目の前がぐわんと一回転するような気持ちの悪さ。しかし、ふと見てみるとぽっかりしていて何も無い。真っ白な中、ぽつんとある。
そんな不思議なものだと思います。
それは感情?いいえ、違うでしょう。
きっと貴方の部屋の隅にあると思いますよ。
#ジャングルジム(グロ注意)
ジャングルジムから落ちて死んだあの子が私を上から見下ろしている。青色のそれは近づいてみると赤黒くなっている。触るとベタベタとしていて気持ちが悪い。あの子がこちらを見ている。
そういえばあの子が死んだ時、打ちどころが悪くて大量に血が吹き出していたらしい。頭は大切な血管が沢山あるから、事故が起こった時、本当に酷い状態だったと大きくなってから母から聞いた。そんなことを思い出しているうちに、もう日が傾いてきた。墨をぶちまけた様な空は真っ暗で、電灯が不気味に光っている。
そろそろ帰ろうかとジャングルジムに背を向け歩き始めた。
ぐしゃっと音が聞こえたが、聞こえなかった振りをした。
#大事にしたい
小学生の頃に拾った松ぼっくりを、私は瓶の中に入れて大事に大事に保管している。
高校生にもなって松ぼっくりを大事にするなんて恥ずかしくて誰にも言えやしない。それに、長い年月を経て若芽のような生き生きとしていた姿はもう見れなくなってしまっていた。
そんなある日、机に置いていた松ぼっくりを誤って落としてしまった。頑丈だと思っていたその身はカランとかわいた音と共に呆気なく壊れた。
一瞬頭が真っ白になってしまったが、こうして形を崩して忘れていくのも人生だなと思い、そっと庭の草むらに置いた。