8/22/2023, 9:03:53 PM
ふと見た先にびょこりと飛び出たタグ。
そのループに指を探り入れ、突っ込んだ。
くいっと引き寄せると、少し生地が伸びた。けれどその一撃は、あなたの体をも引き寄せるだけの効果はない。
「ん?」
振り返る、まだ寝癖の残る頭。そう、だけどこの一撃は、あなたの関心を引くには十分な効果を発揮する。
「ああ」
感情のこもらない二文字。それから、少し照れくさそうな雰囲気。
あなたはその表情を私から隠すようにしてたくし上げたシャツに顔を埋め、その裏表を正し、また袖を通した。
いつもと同じ、整然とした姿がそこに在る。
意外に、几帳面な人だ。
だからこうやって服を逆に着ることなんてない。
ないと思っていた。
脱ぎ捨てたくしゃくしゃを洗ってしまうことも、ましてそのまま適当に着てしまうことも、この人には無縁の行動なのだと。
でも、そうでもなかった。この人だとてただの人なのだ。
今まで裏だったその生地の表面に手を当てると、ほんのりとあなたの温度が残っていた。
すぐ消えてしまうだろうそれを惜しむように、手のひらはそのささやかな熱を追いかける。
【裏返し】