ここではないどこか。
今ではないいつかのお話です。
君と最後に会ったのは、8月末のジクジクと蝉がなく昼下り。いつもの喫茶店だった。
クーラーの効いた店内。
緩やかなクラッシックの音が流れるその空間の中を切るように僕の席へとやってきた君は、席に着くなりアイスのブラックコーヒーを頼んでいたっけ。
僕は、読んでいた小説に栞を挟むと、君と向かい合い、早速話を聞くことにした。主には君のストーカー被害相談だ。
君は、アイスコーヒーを飲みながら、緊張の糸が切れたのか悄然とした様子で、警察に届けを出しても被害にあった訳じゃないから、と取り合ってくれなかった、とポツリ呟き、さめざめと泣き出してしまった。
僕は君にハンカチを差し出しながら、やつれたな、と思っていた。
なんとか君をなだめ、ストーカー行為をしている相手を憎憎しく思い――――ほかに何ができるわけでなし、君の話をよく聞いていく。
ストーカーの相手は分かっているのだ。君の元恋人の男。僕と面識はないが、君の話を聞くには粘着質な性格のよう。
僕は、僕に出来ることは何でもする、と言って君を慰めた。君は、じゃあ暫く会社帰りに家まで付き合ってほしい、そういった。
明日から、ということで詳しい段取りも決めて、僕らは喫茶店をあとにした。
送っていこうか、と言った僕に、君は今日始めて笑顔を見せてくれたね。それは悪いから、と一人で帰ったんだ。
その日の帰り道、ストーカー男に刺されて君はこの世を去った。
ストーカー男も同じ刃物で自殺した。
1年経った今でも思い出す。後悔と積年。
君と最期に会った日。
凡その花は繊細だと思う。
独特の滑らかさのある上質な生地のはなびらはどれも奇麗だし、慎ましやかな雄しべと雌しべや溢れる花粉は気品に満ち溢れている。
はなびらに水が降りかかり、水が弾かれる様は、はなびらの瑞々しい弾力を思わせてまさに優美な美しさ。
特に今の時期は咲き誇る薔薇が絶品だ。
薔薇は育てるのも難しいと聞く。
当に、繊細な花。
どうなってるか分からない。
転職してるかもしれないし、生活環境が変わってるかもしれない。
ただ一つ言えるのは、1年後も季節は巡って地球は自転してるということ。
クリスマスもお正月も、コロナ禍の中でさえなくならなかったんだから、あるということ。
当然、このアプリのお題としても。
子供の頃は、本当に幼い頃は、自分はお姫様だった。ワガママ三昧で、気分屋で、人のことなんか考えない。井の中の蛙大海を知らず。空の青さも分からない。子供心にも愚かな奴だった。
でもそんなお姫様は、当然保育園で他の子とうまく行かなくて、途端にただの蛙になる。
でも絶対的な万能感がなくなっただけで、子供の頃のワガママ三昧は所々で顔を出して、大人になっても直らない。
もうお姫様だとはとても思ってないけど、相変わらず周囲の目は冷ややかだ。
三つ子の魂百まで。