—雪明かりのロマンス—
部活中にガットが切れた。
仕方なく、帰りにスポーツショップに寄り道していたら、すっかり遅くなってしまった。
雪で覆われた地面を、街灯が綺麗に照らしている。夜道は思ったよりも白い。
「えっ……」
町を歩いていると、少し前を歩く太田の姿が見えた。同じクラスメイトであり、私が想いを寄せている男子だ。
隣には女性も一緒にいた。チラチラと太田を見るときの横顔に、見覚えはない。
雪明かりのせいではっきりと見える。それでも私は、何故か後をつけていた。
前の二人は、駅に着くと別れた。
太田は女性に手を振り、女性は何回か礼をして去って行った。
「あれ、何してんの?」彼にバレた。
少し近づきすぎたのか、彼が振り返った時に目が合ってしまった。私はスポーツショップの手提げを見せた。
「ちょっと寄り道してたんだ」
「そうなんだ。俺も帰りだからさ、一緒に帰ろうよ」
「いいよ」
なるべくいつもの私でいられるように振る舞った。必死に心を落ち着かせる。
「太田は何してたの?」
あまり聞きたくはなかったけれど、聞かなきゃ後悔するような気がした。
「俺は道案内してた。携帯の充電がなくなって、場所が分からなくなったんだってさ」
「へぇ、優しいね」
心の中でホッと息をつく。なるべく表情を緩めないように気をつけた。
他愛もない話をしながら、二人で帰った。
ただ一緒に歩いているだけで、胸が温かい。こんな夜を忘れたくない、と私は思った。
お題:雪明かりの夜
—人間観察—
人間は何かある度に、私に向かって願い事をする。
勉学、恋愛、将来の事。
どれも身勝手で、自身で努力すれば叶う願いばかりだ。
「くだらない」
天からこの世界を見下ろしていた。
私は、人間のために動くことはない。
人間は願いが叶えば、『神様が助けてくれた』と勝手に思い込んでいる。
もっと自分自身を信じるべきだ、と私は思う。
その時、また人間から祈りが届いた。
『みんなを助けてくれる神様が幸せになれますように』
ある少女の願いだった。思わず私は微笑んだ。
これだから人間はおもしろい。
お題:祈りを捧げて
—思い出の場所—
子供の頃、私は科学館が大好きだった。
科学館の中にはプラネタリウムがある。それは何度見ても綺麗で楽しくて、休みの度に母にお願いして連れて行ってもらった。
「何回も見て、飽きないの?」
母の言葉に、私は首をブンブン横に振った。きっと母は飽きていただろうけれど、私に付き合ってくれた。
母と手を繋いで、何度も通った科学館の入り口。久しぶりに見ると、改装されて新しくなっていた。
「懐かしいわねぇ」母が言った。
「本当だね」
あれから五十年近くが経った。
今度は、私が母の行きたい所に連れていく番だ。
あの頃と同じように手を繋いで入り口を通った。手のぬくもりは昔と変わらない。
お題:遠い日のぬくもり
—火の揺れる間—
妻がろうそくを立てて、話しかけてきた。
「今日は、ユメノの体調が回復して、ちゃんと学校に行ったよ」
ユメノは私の一人娘だ。
「それは良かった。熱で寝込んでいたもんな。元気な姿が一番だ」
妻は嬉しそうな顔をした。
「学校では、定期テストの結果の返却があったみたいで、それを持って帰ってきた。どうだったと思う?」
「うーん、最近勉強頑張ってるし、良い結果が出たんじゃないか?いや、そう信じたい」
少し間を空けて、妻が続けた。
「なんと、学年で一番の成績だったんだって!」
「本当か⁈昔は勉強苦手だったのに、ユメノはすごいなぁ」
「将来はお医者さんになりたいから、勉強頑張ってるみたいよ」
胸が熱くなる。「立派に育ったんだな」
「ユメノが大学に行けるように、私も頑張って働くね。昇進の話もあるから期待して見ていてちょうだい」
「あぁ、俺はいつでも見てる」
妻は答えず、ろうそくの火だけが揺れた。
しばらく手を合わせた後、仏壇から離れて行ってしまった。
「ずっと近くで見てるから」
もう、俺の声は誰にも聞いてもらうことはできない。それでも俺はずっと見ている。
お題:揺れるキャンドル
—遺言—
夢とか希望とか、光り輝くものが未来にはあって、その光を掴むために、私達は必死に生きている。
それが人生だ、と私は思う。
だが時には闇も潜んでいて、大切な人を失ったり、死にたくなるほど苦しい時間を味わったりすることもある。
こうした闇に触れてから、私達は激しく後悔するのだ。
あの時あぁしてれば良かった、もっと頑張れば良かった、と。
私にはその時間が長すぎたな、と死んでしまった今になって後悔する。
気がつくまでに時間がかかりすぎた。
光の回廊を、一歩一歩踏み締めて歩く。
終着点はもうすぐそこにある。
あなた達の歩む道が、せめて、私のように後悔しない人生であることを願っている。
お題:光の回廊