初心者太郎

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12/26/2025, 2:12:35 AM

—人間観察—

人間は何かある度に、私に向かって願い事をする。
勉学、恋愛、将来の事。
どれも身勝手で、自身で努力すれば叶う願いばかりだ。

「くだらない」

天からこの世界を見下ろしていた。
私は、人間のために動くことはない。
人間は願いが叶えば、『神様が助けてくれた』と勝手に思い込んでいる。

もっと自分自身を信じるべきだ、と私は思う。

その時、また人間から祈りが届いた。

『みんなを助けてくれる神様が幸せになれますように』

ある少女の願いだった。思わず私は微笑んだ。
これだから人間はおもしろい。

お題:祈りを捧げて

12/25/2025, 1:34:53 AM

—思い出の場所—

子供の頃、私は科学館が大好きだった。
科学館の中にはプラネタリウムがある。それは何度見ても綺麗で楽しくて、休みの度に母にお願いして連れて行ってもらった。

「何回も見て、飽きないの?」

母の言葉に、私は首をブンブン横に振った。きっと母は飽きていただろうけれど、私に付き合ってくれた。

母と手を繋いで、何度も通った科学館の入り口。久しぶりに見ると、改装されて新しくなっていた。

「懐かしいわねぇ」母が言った。
「本当だね」

あれから五十年近くが経った。
今度は、私が母の行きたい所に連れていく番だ。

あの頃と同じように手を繋いで入り口を通った。手のぬくもりは昔と変わらない。

お題:遠い日のぬくもり

12/24/2025, 5:00:44 AM

—火の揺れる間—

妻がろうそくを立てて、話しかけてきた。

「今日は、ユメノの体調が回復して、ちゃんと学校に行ったよ」

ユメノは私の一人娘だ。

「それは良かった。熱で寝込んでいたもんな。元気な姿が一番だ」

妻は嬉しそうな顔をした。

「学校では、定期テストの結果の返却があったみたいで、それを持って帰ってきた。どうだったと思う?」
「うーん、最近勉強頑張ってるし、良い結果が出たんじゃないか?いや、そう信じたい」

少し間を空けて、妻が続けた。

「なんと、学年で一番の成績だったんだって!」
「本当か⁈昔は勉強苦手だったのに、ユメノはすごいなぁ」
「将来はお医者さんになりたいから、勉強頑張ってるみたいよ」

胸が熱くなる。「立派に育ったんだな」

「ユメノが大学に行けるように、私も頑張って働くね。昇進の話もあるから期待して見ていてちょうだい」
「あぁ、俺はいつでも見てる」

妻は答えず、ろうそくの火だけが揺れた。
しばらく手を合わせた後、仏壇から離れて行ってしまった。

「ずっと近くで見てるから」

もう、俺の声は誰にも聞いてもらうことはできない。それでも俺はずっと見ている。

お題:揺れるキャンドル

12/23/2025, 1:52:36 AM

—遺言—

夢とか希望とか、光り輝くものが未来にはあって、その光を掴むために、私達は必死に生きている。
それが人生だ、と私は思う。

だが時には闇も潜んでいて、大切な人を失ったり、死にたくなるほど苦しい時間を味わったりすることもある。
こうした闇に触れてから、私達は激しく後悔するのだ。
あの時あぁしてれば良かった、もっと頑張れば良かった、と。

私にはその時間が長すぎたな、と死んでしまった今になって後悔する。
気がつくまでに時間がかかりすぎた。

光の回廊を、一歩一歩踏み締めて歩く。
終着点はもうすぐそこにある。

あなた達の歩む道が、せめて、私のように後悔しない人生であることを願っている。

お題:光の回廊

12/22/2025, 6:12:33 AM

—似たもの同士—

人からの頼みを断ることができない。
そんな俺の性格を見抜いた周りは、いつも面倒ごとを押し付けてくる。
締切が近い仕事とか、他人のミスの尻拭いとか、社内のイベントの幹事とかも。

俺はそうしたものを断らないが、不満が溜まらない訳ではない。体の内に積もりに積もっているのである。

部屋の中でゴロゴロしていると、インターフォンが鳴った。

「はい」
「先輩、開けてください」

モニターを見ると、会社の後輩が立っていた。
彼女も俺と似たような性格で、よく仕事を押し付けられる。何度か仕事を一緒にすることもあって仲良くなってしまった。

玄関の扉を開けた。

「おぉ、雪降ってるんだな」

マンションの三階から夜の町を見ると、家々の屋根は白かった。

「そうです、寒いので早く入れてください」
「はいはい」

彼女はレジ袋を片手に持っていた。

「今日は鍋にしますね」

最近、彼女は家によく来る。会社での不満が溜まっているのだろう。
まるで、外の雪のように積もっているに違いない。

「いつも悪いな」

俺はこたつでテレビを見ながら待った。しばらくすると、彼女が鍋を持って、こっちに来た。

「ビールでいいか?」
「はい、ありがとうございます」

冷蔵庫から二本、缶ビールを取り出した。
二人で向かい合って座る。
プルタブを引いた。
乾杯、と二人で缶をぶつけた。

「先輩、聞いてください——」

きっと今日も彼女の愚痴は止まらない。

雪は、たくさん積もれば除雪しなければならない。
彼女にとって、俺がその役割なんだろう。

でも逆に、俺にとっても彼女がその役割をしてくれている。
おそらく彼女は気づいていない。

お題:降り積もる想い

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