7/15/2024, 5:20:52 PM
【終わりにしよう】
目が覚めるとセミが鳴いていた。
蒸し暑い空気が部屋中を包んでいる。首と背中に汗が流れているのが分かった。
「・・・ご飯、食べないと・・・」
掠れた声で呟き、ゆっくりと体を起こす。
キッチンまで歩くのすらだるい。それでも僕は生きないといけない。
コップとプレート皿を食器棚から取り出す。コーヒーと、パンとウインナーと目玉焼き。メニューはいつも決まっている。
今日はミニトマトでも添えようか。確か、ベランダで育てていたのがあったはず。
フライパンの上で卵を割って、そのまま焼いて、そしてテーブルに並べる。
座ろうとしたとき、コップを二つ出してしまったことに気がついた。
「戻さないと・・・」
そう言って手を伸ばす、つもりだった。僕の手は固まったように動かない。
目線をそらす。君の写真が目に入る。
いつも通り、笑っている。
もう、君はここにはいないのに。
視界が滲むのが分かる。涙がテーブルの上に落ちる。
拭っても意味が無いのを知っているから、僕は何をするでもなく泣き続けた。
分かっている、もう君がいないこと。
分かっている、君は僕に生きていてほしいこと。
分かっている、どんなに悲しんでも君には会えないこと。僕は生きていくしかないということ。
でも、もう限界なんだ。
本当はもう、ご飯を食べられない。本当はもう、歩くことすらままならない。
君は僕に「生きて」と言ったけれど、君がいれば天国だったこの場所も、今では地獄だ。君の気配は確かにするのに、君だけがいない。
君だけがいない世界で、僕は生きていくことができない。
本当は、本当はね、もう終わりにしたいんだ。ご飯を食べること。朝起きること。これから生きていくこと。
けれど、君がそれを許しはしないから。君と約束してしまったから。
僕はこれからも、生き続けてしまうんだろう。