空が泣く
もう
「空が泣く」と君。
「空が泣く?」と私。
雨でも降るのだろうか。と考える私の想像力はこの程度で、君の考えていることが理解できないのが悔しい。
「どういうこと?」と素直に訊くと、
「雨が降るんだ」と君は空を見上げる。
その日は結局雨は降らなかった。
何で今そんな事を思い出すのかというと、
世界に一つだけ
鐘の音
人生最後の夏休み。新幹線と電車を乗り継ぎ、非現実をやや感じながら、君と並んで歩いている。最高気温を更新した今日、私は恥ずかしさと暑さで手を繋ごうと誘わない事にした。少し寂しいけど仕方がない。それでも、自販機で買ったペットボトルを君が居るのとは逆の手で持っている。癖というか日々の習慣は状況が変わってもそのままだったりする。
もしもタイムマシンがあったなら
「親殺しのパラドックスは、時間遡行を語る上で欠かせない」
君は当たり棒付きのアイスを齧る。
「自分を産んだ両親を、二人が出会う前に殺害したらどうなるのか、か」
僕も同じアイスを齧る。ソーダ味のザクザクとした氷に夏を感じる。駅を出たらコンビニでアイスを買って帰る、いつもの帰り道だった。
「両親が出会う前に殺害したなら、両親を殺害する自分も生まれていない。パラドックスってよりただの不可能の証明じゃないか?」と僕は訊く。
「殺害は必ず失敗するとか並行世界が生まれるとか、一応パラドックスを回避する仮説もあるらしいよ。出来ることには限りがあるって考えは、私は嫌いじゃないかな」
目の前の信号が赤に変わって、僕らは木陰で立ち止まる。
「できる事に限りがあったとして、タイムマシンがあったらどうする?」
君は最後の一口を頬張って、自慢気に笑う。
「アイスを選び直すかな」と、アイスの棒をこちらに向ける。
僕は呆れて笑ってしまった。
「ハズレじゃないか」