金木犀

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 もしもタイムマシンがあったなら

「親殺しのパラドックスは、時間遡行を語る上で欠かせない」
 君は当たり棒付きのアイスを齧る。
「自分を産んだ両親を、二人が出会う前に殺害したらどうなるのか、か」
 僕も同じアイスを齧る。ソーダ味のザクザクとした氷に夏を感じる。駅を出たらコンビニでアイスを買って帰る、いつもの帰り道だった。
「両親が出会う前に殺害したなら、両親を殺害する自分も生まれていない。パラドックスってよりただの不可能の証明じゃないか?」と僕は訊く。
「殺害は必ず失敗するとか並行世界が生まれるとか、一応パラドックスを回避する仮説もあるらしいよ。出来ることには限りがあるって考えは、私は嫌いじゃないかな」
 目の前の信号が赤に変わって、僕らは木陰で立ち止まる。
「できる事に限りがあったとして、タイムマシンがあったらどうする?」
 君は最後の一口を頬張って、自慢気に笑う。
「アイスを選び直すかな」と、アイスの棒をこちらに向ける。
 僕は呆れて笑ってしまった。
「ハズレじゃないか」

7/22/2024, 5:16:10 PM