落ちていく
私は君のことが好きなんだと思う。
君がこくこくとうたた寝している五時間目。
私は隣の席でそれをこっそり盗み見ている。昨日は気づいたら夜中の二時を過ぎていたとか。なんて、夜更かしなんて関係なく、大抵君は五時間目にはうたた寝を始める。先生に指されて、寝ぼけた返事をしては私に答えを聞いてくる。ありがとう、と無邪気な顔で笑って、しばらくしないうちにまた眠る。
「いつものお礼」
そう言って君はチョコレートをくれた。いつも食べてるよねと、いつものように無邪気な笑顔で。
ああ、好き……かも。
私はまだ素直になりきれない。なりきれないまま、少しずつ、落ちていく。
どうすればいいの?
「どうすればいいの?」
口をついた言葉が、私が思っているよりもずっと単純だったことに少しだけ笑ってしまった。大学生にもなって、本当に子供っぽい恋愛だと思う。
好きという気持ちを伝えられないまま、彼は他の人と付き合い始めた。
でも仕方ないじゃないか。怖いのだから。もしもフラれたら、なんて考えない方がおかしい。それなら今のまま仲良くしていたいと思って何が悪いんだ。
それに、結局私ではなかったんだ。
肩の力が抜けた気がした。もう失恋を恐れる事もないのだから。このまま忘れるだけだ。
でも、どうしてこんなに悲しいのだろう。諦めはついたのに。
「……どうすればいいの?」
誰か涙の止め方を教えてくれ。
たくさんの想い出
人間の記憶力というものには限界がある。そこで開発されたのが記憶保管マシン『BOOK』だった。名前の通り、記憶をそのまま一冊の本に抽出する機械だ。
僕の部屋の本棚にも多くのBOOKが並んでいる。「夏休み」や「クリスマス」、「初恋」なんてのもある。こうすれば忘れることはないし、むしろ忘れてしまいたい記憶は捨ててしまえば良い。
ところで——今更知る術などないのだけれど——年代順に並べられたBOOKのうち高校二年生の夏から冬の時期がすっぽりと抜けているのだが、僕に一体何があったのだろう。