彼女はカラフルな物を着飾るのが好きだった。
髪も、爪も、まつ毛も、眉毛も、あの深い黒の瞳さえ、虹色に染めてしまう。
僕はそんな彼女が好きではなかった。
彼女はカラフルで、目がチカチカと見るのを拒否してしまうような部屋の壁に、毎日カラフルな絵を白に塗りつぶして、また描いてと繰り返すのだ。
彼女は部活動にも入らなかった。自分のカラフルを堪能したいから、毎日、毎日、何もかもを色とりどりにしてしまう。
一方、僕は白が好きだ。
何も無いから、何にでもなれる。もちろん、彼女の好きな色にも。
だけど僕は、そんな白の何も無い、が好きだった。
僕には昔から、勉強も運動も得意で、同級生から上級生、大人にも恐れられるほどに人一倍頭が抜けていた。僕も昔はカラフルな色が好きだった。何者でもあるようで、気がつけば爪の先までカラフルなあの不快な色に変えていた。
あれが嫌いになったのは、彼女が転校してきた2年前の夏。
あの時も、カラフルなものが好きで堪らなかった彼女に僕は一番最初に目をつけられた。
登下校はおろか、休み時間も放課後も常に僕達は一緒にユニコーンのカラフルな角のキーホルダーをバックにぶら下げながら話した。
親友とも呼べる関係にまでなった彼女に唯一不満があるとしたら、僕をも超える才能だった。
僕にあった憧れと期待と賞賛の声、ミュージカルの主人公のようなスポットライトは、瞬く間に彼女に向けられた。そこまではまだ良かった。僕を二枚目としてでも見てくれたのだから。
でも、毎年僕が応募し続けても入選しない絵のコンテストで、彼女は初めてにして最優秀賞までとった。絵の経験無しで、美術で少しだけ触れたことのある程度のものだと言うのに、十年間僕が積み上げてきたトランプの城が、何者かによって崩されたような、呆れと悔しさ。なんとも言えぬ気分になった。……あのカラフルでよくわからない、雑で下手な絵さえ無ければ!僕はこんな思いをせずに済んだと言うのに!
それから僕は、勉強も運動もやる気が無くなり、月日が経つにつれ、通知表に記載された成績は、酷いものとなっていた。
有名高校に進学するはずが、僕は市内の高校に受験することになった。両親を初め、親戚は僕を白い目で見てくる。最初から、何者にでもなれるカラフルな彼女。最後には、全てを無くした僕。
ふふ、最高の役じゃないか。
さて、これで物語は終わりとしよう。
めでたしめでたし。
《カラフル》