私知らなかったの。
スライドレールの引き出しが外れるなんて。その奥に物を落としたら一生取れないと思っていた。どんな手を使っても取れないと思っていた。だからほっとした、外せると知って。だって落としちゃったんだもの。私の日記帳。
中学生の頃に好きになった人への想いを、まるでストーカーのように書き連ねたノート。甘酸っぱさに身を包み悶えながら最高…と青春時代の彼に想いをはせて読み返している私の姿なんて誰にも想像させたくないし、何より家族には一番見られたくない。向こうだって私がこんな恋愛体質だったなんて考えたくないでしょ。だから早めに拾っておこう。
私の手元に戻ったら寿命が来るまでひたすら堪能して、どこか遠くで灰にしよう。それが一番。もちろんこの想いと一緒にね。
ってあれ?
ない
え、なんで?奥に落ちたはずなのに。待って待って…何でないの?いつの間にかノートがなくなっていたから、後ろに落ちたとばかり…え?違うの?ノートは?ノートは⁉ノートは⁉⁉引き出しをひっくり返し半狂乱で探す脳裏に、一番考えたくない有り様が頭をかすめていく。
誰かが持っている
うそ、いやだ、まさか、違うと言って…涙目になる私をよそに遠くからこちらを誘う声がする。
ご飯できたわよぉぉおお
疑心暗鬼の日々が始まる──
向かいあわせって、何かと緊張しない?
居心地が悪いというか、相手に見られているというか。何だか視線に縛られているみたいで、気持ちも体もこわばってしまう。
放置される方が断然好きだわ
あなたを前にしてこんな事考えている。微塵も感じさせないつもりも、仕草ひとつに出ているだろう。
早くひとりになりたい
大好きなあなたを前にしてこんなこと考えている。いつになったら人に慣れるのか。いや一生ないだろうな。だって物心ついた頃からこんな思いに縛られている。誰か私の呪縛を解いて。解放して。そう、わかっている。私は自分自身に囚われているって事。自分との戦いね。でもね、私は戦いを好まないし、こんな風にうだうだしている間に協定が組まれて、いつの間にやら解決してるっていう方向を望んでいる。
だからさ
次はカウンター席に座らない?