ゆっくり目蓋を上げると目覚まし時計が30分前に鳴っていることに気がつく。
起こしてって言ったじゃん!と目覚まし時計に怒ることを諦め、準備タイムアタックの開始の合図が鳴る。
朝ごはん。どうしよう、ゆっくり食べることはできないがはやく準備をすれば食べれないこともない。何も食べずに電車でお腹が鳴るのは嫌だ。
それと、着替え。何を着ようか悩んでる暇はな
い。
それと、それと、、、
無限にある選択肢の中からまず、寝癖を直すことにした。
寝坊した時に限ってなぜ寝癖は酷いのだろう。
そんな疑問と寝癖を水で流し、ドライヤーで気持ちと髪を整える。
着替えは、この前気に入って買ったお洒落な服を着たいが、下のズボンは決まってないから着るのは止めよう。
結局、白シャツにジーパンという無難な服にした。お洒落だとか変だとか気にしている場合ではない。
残り20分。
朝ごはんを食べれる時間を何とか確保した。ご飯を冷たい味噌汁で一気に流し込み、ラストスパートをかける。
歯ブラシに適当な量の歯みがき粉をつけ、無作為に歯ブラシを動かす。ぺっと口から泡を吐き出し、うがいを数回して口のなかをスッキリさせる。
残り10分。
スマホと財布、パソコン、それに資料、あとは鍵、、、鍵がない。昨日どこにやったんだ。
いつも置いている場所、机の下、椅子の下。どこにもない。
、、、洗面所にあった。どうして洗面所にあるんだ。
怒りを抑え、家から飛び出した。
結局、鍵を探したせいですこし遅れてしまった。
次は探さないように起きてすぐ近くにある本棚に鍵を置いておこう。
都会の光に憧れて
暗い夜道の田舎を抜け出し
1部屋5万の狭い部屋
都会の理想は幻想で
家族も友も置いてきた
誰もいない・・・
助けもない・・・
広い世界に黒い影
「アンカー新島、補欠には2年の田中、太田、1年から大塚、以上10名が今年の駅伝メンバーだ。」
正直わかっていた。
自分には実力がないってこと。
高校三年、最後の駅伝大会、コーチの口から名前を呼ばれることはなかった。
もっと練習をしていれば何かが変わったのだろうか、あの日の記録会でもっといいタイムがだせればメンバーに入れたのだろうか。
後悔で頭が埋め尽くされ、正常に動くことのできなくなった僕はきっとAIのようにみんなには見えているだろう。
メンバー発表が終わり、みんなの視線が自分の体を蝕み、錆び付いていく。
僕は自分を殺し、ぎこちない笑顔でみんなを見た。
カーン、カーン、カーン、カーン
8月5日、あいつの結婚式だ。
招待状は3ヶ月前に届いたが、どんな顔で、どんな態度で、あいつの結婚を祝えばいいのかわからないから、返事は出さなかった。
あいつと別れてもう何年経ったのだろう。友達として会うようになっても、気持ちは変わらなかった。
好きだ。大好きだ。
必ず俺が幸せにするって決めてたのに、あいつは俺じゃなかったんだ。他の男だったんだ。
鐘の音が耳元で鳴り響く。
「結婚おめでとう」
この言葉が言えるまでは、まだ時間はかかりそうだ。
今、彼女は何をしているのだろう。
勉強しているのかな、寝ているのかな、好きな人とメールしているのかな、もし、そうなら僕は勝てるのだろうか。そんな想像ばかりしてしまう。
メールを送る勇気もなく、直接話す勇気もなく。
この想いだけが暴走するばかり。
「つまらないことでも」気にしてしまう片想い。
あぁ神様どうかこの恋を実らせてくれませんか。