【鳥のように】
空を飛びたいと思った。真っ青なきれいな空を、自由に飛びまわりたい。
飛行機とかいまの技術者があれば空を飛ぶことは可能。
でも自分の力で飛ぶのは不可能。
ないものねだりだろう。逆に、鳥も人間対して、憧れてるとこがあるのだろう。
ないものねだり。
【いつまでも捨てられないもの】
ぬいぐるみたち。
小さい頃に買ってもらった大きな某世界的スーパースターのねずみさん。20年以上一緒にいる。
他にも、最近の推しである、うぐいす横丁で生まれた耳が黒の白い犬の男の子のぬいぐるみがたくさん。
ゲームセンターに行っちゃうと、必ず1体は連れて帰ってくるので、大きい子も小さい子も、いろんな子たちがたくさん。
本。
小さい時から本が好きで、電子書籍もいいけど、結局買っちゃう紙の本。最低でも月1は本屋さんに行って、新刊をチェックして。SNSでもチェックするんだけど、必ず本屋にも行く。学生の頃、学校の図書館で借りて読んでた本をまた読みたくなって、古本屋さんに行ってみたり。積読が増えてく。読み終わっても、何度も読み返すタイプだから、手元に残してある。
CDやDVD。
学生時代の推しのCDやDVDを今だにも持ってる。何回も聞いたCD。カメラ割りも覚えたライブDVD。結局、一度もライブには行けなかったけど。
【自転車に乗って】
少し走ると急な坂が見えた。あの坂を越えれば─。
思い切りペダルを踏み込む。蝉の声が聞こえる。坂の上のほうが陽炎なのか、ぼやぁっと見えた。
途中、きつくなって立ち漕ぎをしてみる。坂の頂上まであと少し。
坂の頂上からは、目的地が少し見えた。あとはこの坂を少し下って、あの角を曲がれば。
坂を一気に下っていく。目的地のあの匂い。そう、磯の匂い。もうすぐ海に近づく。
汗が滴り落ちる。今頃、腕や首の後ろは日焼けして真っ赤なんだろう。夏休みが終わる頃には、どれだけ黒くなるんだろうか。
次はどこまで行こう。
【心の健康】
いつもと同じ生活をしてた。いつもなら受け流せることなのに、何故かその時は受け流せなかった。
たぶん、いままでのものが積み重なっていたのだと思う。気づかなかった。
家に着き、玄関をあけた瞬間、自分でも訳が分からないくらいに涙が止まらなくなった。泣いて、泣き疲れて、服も着替えないまま、メイクも落とさないまま、寝てしまった。
朝になった。身体が動かない。仕事に行かなきゃいけないのに。迷惑をかけたくないのに。
横になったまま、スマホを握りしめ、20分が経っていた。身体を無理やり起こして、昨日のメイクを落とそうと鏡を見た。ひどい顔だった。このまま仕事行くのは難しい。そう判断して、会社に欠勤の電話をかけた。
「わかりました。ゆっくり休んでください。」
電話を切る。迷惑をかけたくない、と思っていたのに、簡単に仕事を休めたことに何故か心に引っかかりを感じた。…私が休んでも、仕事に影響しないんだ。いつもなら休めてラッキーくらいに思うのに。この時の私は、やはり何かがおかしかった。
気がつくと、お昼を過ぎていた。寝てたわけではない。何かをしていたわけではないのに、ソファに座ったまま、何時間も経っていた。どうしたらいいのか自分でもわからなくて、また涙が止まらなくなった。
部屋の明かりがついて、目が覚めた。あれからまた時間が過ぎ、外は暗くなっていた。
「どうした?なにかあった?」
彼が側に座り、私のこと抱きしめてくれた。自分でもどうしたのかわからない。泣きながらそう伝えると、「そっか」と呟き、更に強く抱きしめてくれた。
「…ハグするとストレスが少し軽減されるんだって。効果あるかわからないけど。でも少しでも安心できるなら。」
気持ちが少し落ち着いて、ゆっくり顔をあげる。気づいた彼は、優しく微笑み、頭を撫でてくれた。
「明日、俺も休みだから、仕事休む?そしたら明日も2人でゆっくり過ごそう」
そんな優しい提案に、私はまた泣きそうになる。
それから数日、仕事から帰ると涙が止まらなくなるという症状が続き、私は意を決して、心療内科へと足を運んだ。
『うつ病』と診断された。
彼は毎日、私の家に来て、なにも出来なくなった私に代わり、慣れない家事をして、夜は私を抱きしめて一緒に寝てくれた。
仕事は休職をした。仕事もできず、家事もできない自分が情けなかった。
【鐘の音】
もうすぐ0:00の鐘がなる。魔法が解けてしまう前に、急いで家に帰らないと。引き止める彼を振りほどき、お城の外へ向かう。ガラスの靴が脱げてしまったが、戻る時間はなかった。
女の子なら憧れるであろうストーリー。魔法できれいなドレスを着て、王子様と出会い、ガラスの靴をもって王子様が迎えに来てくれる。
現実にはそんな話があるわけもなく、王子様が迎えに来てくれるどころか、王子様に出会うチャンスに巡りあえない。鏡に映る姿は、ぼさぼさの髪にジャージ姿。すっぴんにメガネ。こんな姿では王子様に出会えても、選ばれるはずがない。
今日はちゃんと時間をかけてメイクしよう。新しく買ったYSLのリップ塗って、お気に入りの服を着て。眠ったままのヒール履いて、仕上げはお気に入りのDiorの香水を足首へ。それだけで少し自信がつく。まるで魔法がかかったかのように。
王子様に選ばれるかはわからないが、さっきの自信なさ気な姿よりは、今の姿のほうが自分でも好きかもしれない。
外へでかけよう。魔法が解けてしまう前に。