「愛してる」
喧嘩をしても、お互いの仕事が忙しくても、言い合おうねと。そう、決めていたのに。
「なんか疲れちゃった。」
「束縛激しくない?仕事できないよそんなの。」
「職場には異性もいるしさ…連絡もそんな頻繁に取れないでしょ、常識考えてよ。」
テーブルの向かいに座る同居人が頭を抱えながら私にそう言う。どうして、だって、決めていたことじゃないか。
それを含めて、愛してくれるのではなかったのか。
責めるような私の口調に、同居人の目が揺れる。
「もう、愛はない。」
何も握っていない手に力が入る。
そうか、もう、終わりなのか。
【愛言葉】
私の中の友達の定義は世間とずれている気がする。
そう初めて感じたのは学生時代であった。
「なんかさ、ずれてるよね。たまに。」
友達からそう言われ、初めて自分の事を見返した。
そもそも、その子のこともクラスメイトの一人として数えており、友達の括りにいれてはいなかった。
ただ、お喋りをする人、同じ空間で過ごす人、それだけの人の中の一人だった。
嫌いではないが、好きでもない。
顔は分かるし名前もすぐに出てくるが、パーソナルな情報まで持ち合わせてはいない。
そういう子のことも「友達」と呼ぶのだと知らなかったのだ。
知らなかったのか、定義することを怖がったのか。
私はそれから、事あるごとに自分が他の人とずれているのではないか、と考えてしまうようになった。
私は、今話しているこの人と友達なのか、親友なのか、他人なのか、クラスメイトなのか、知り合いなだけなのか。
というか、私がここまで悩むような事なのか?
彼女がずれていただけかもしれない。
特別パーソナルスペースの狭い、陽気な子だったのかもしれない。
ならば、こんなふうに考えていることは無駄ではないのか?
分からない。
ーそんなことをつらつらと大学の同級生に言ったら大笑いされてしまった。
「分かってるじゃん。無駄だって。そんな定義みんな違うでしょ。少なくとも私はアンタの事友達とも親友とも思うけど、関係が崩れるような事をされたら他人だし、顔見知りの人って思うよ。
コロコロかわるもんだよ。そんなの。」
目の前の彼女は、私の考えを正してくる。彼女の手元にあったホットココアはとうにけむりがでなくなって、ケーキはお皿しか残っていない。それくらいの間私はダラダラと彼女に無駄な話をしてしまったという事だ。苦笑いをしながら適当に相槌をうって、席を立った。次の授業が始まってしまう、などと適当に言って自分が飲んだブラックコーヒー一杯分の小金を机に置いて。
次の教室に向かいながら、あなたが言ったのよ、とは口が裂けても言えないな、と思った。
【友達】