#89「花宴」


冷たい風に吹かれて、枯れ葉が宙を待っている。
凍てついた冬の空気を掻き混ぜて花が踊る。
その様子はまるで春の中だった。
枯れた花弁が春の中、宴を開いたようだった。
萎れた落葉が春の前、待ち侘びているようだった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　お題：枯葉

　#88「コーヒーカップを割って」


珈琲の香る朝の風景が欲しいから。
そんな理想の明日を手にしたいから。
今日を糧として芳香な明日を望む。
今日を器として上々な明日を淹れる。
明日の為にこの日を捧げる。
そんな今日にもうさよならをしよう。


　　　　　　　お題：今日にさよなら

　#87「嗅覚」


新しい飼い主に引き取られたけど、ここは嫌だ。
何か気に食わないし、好みじゃない場所。
新品のおもちゃは気に入らないから爪を立てる。
お気に入りは少し古いこのぬいぐるみ。
君がくれたものだから。君の匂いがするから。
いつしか嗅がなくなった君を、
感じていられる唯一のアイテム。
いつか戻ってきてくれると信じて、待っているから。


　　　　　　　　　　　　　　　　お題：お気に入り

　#86「誰より」


「誰よりも貴方のことを愛しています。」
そういう奴ほど、自分が一番大切らしい。


　　　　　　　　　　　　お題：誰よりも

　#85「私からの私宛の手紙の内容は酷であった。」


10年後の私から届いた手紙に書いてあったこと。
それを読んだ今の私は焦る思いで必死になっている。
必死に原稿執筆。必死にバイト探し。必死に勉強。
このままの将来がああは嫌だ。絶対に変えてやる。
結局自分が一番頼れるし、自分しか自分を変えることはできないのだから。


　　　　　　　　　お題：10年後の私から届いた手紙