secret love
「好きな人ができた…離婚してくれ」
ある日突然夫に言われた。
いつも通り朝ごはんを用意して、そしていつも通りの日常が始まると思っていた。
でも、不思議と驚きはしなかった。
心の片隅でいつかこうなるんだろうなと思っていた自分がいた。
「いいわ、分かった。離婚してあげる」
まさかすぐに了承すると思わなかったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔する夫。
最近、あなたと会話しようとしても貴方はどこか上の空。
今までスマホなんて仕事先の連絡ばかりだったから、鍵なんてかけてなかったのに鍵をかけてコソコソしてるから、何となくだけど浮気を疑ってた。
さぞかし新しい恋人との秘密の恋は楽しかったでしょうね。
ええ本当に心底腸が煮えたぎるけど、私じゃあなたを笑顔にはできないから潔く別れてあげる。
あなたにはもう教えないけど、私はあなたに心の底から恋して、そして愛していたの。
叶うなら私の手であなたを幸せにしたかったわ…
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父方の祖父母の家に来た。
ばあちゃんの家に来るのは何年ぶりだろうか?
この家に遊びに来ていたのは、もう随分昔のことだ。
両親が離婚した、来なくなった理由はそれだけだった。
幼い俺は離婚の意味や、ばあちゃん、じいちゃんに突然に会えなくる理由が何一つ分からなかった。
両親が離婚するまで、ばあちゃんたちの家に遊びに来るのが好きだったことは今も覚えてる。
『冷えたスイカあるから食べてけぇ』
祖母が祖父が畑で育てたスイカを夏の季節は出してくれた。
甘くて瑞々しいスイカをじいちゃんと庭でスイカの種を飛ばして競争したり、虫取りをしたりした。
夜寝る時ばあちゃんが何か書いてるの、ばあちゃんに
「何書いてるの」を聞いたような気がするを
あの頃が子ども時代で一番幸せだったのだろう。
自分の両親の関係は冷え切っていた。
母方の祖父母とは会うことは会った。でもばあちゃんたちほど思い出は無い。
離婚後は母に親権を取られて、そしてじいちゃんたちとはそれっきり。
じいちゃん、ばあちゃんは元気だろうかといつも考えてた。
大人になったら会いに行こうと思ってた。
そんな矢先にばあちゃんたちの訃報を聞いた。
車両事故だったらしい。
母親が父から連絡がきたからと教えてくれた。
でも、通夜も葬式も終わった後だった。
「なぜすぐ教えなかった」と怒鳴ったことだけは許してほしい。
色んな気持ちを抑えて、両親が別れてから初めて父に連絡とることにした、そして今に至る。
じいちゃんたちの家に来た、記憶の頃より家が小さく見えた。
仏壇に手を合わせた。あの人たちはこんなに小さくなかったのにと思わずにいられなかった。
そして父とは気まずかったが、昔の話もできた。
父に「これをなどうしても渡したくてお前を呼んだんだ」
それは古ぼけたばあちゃんの日記帳だった。
ページをめくるたび俺のことが書かれてた。
スイカを食べたことや、俺が小学生になったこと、誕生日を迎えたこと色んなことが書かれてた。
そしてある日を境に会えなくて寂しい、元気でいるからしらと、じいちゃんは「今頃でっかくなってるぞ」をよく口癖のように言うようなった書かれてた。
ページをめくると、じいちゃんやばあちゃんの顔が鮮明に思い出せる。
でもページをめくるたびに、もうじいちゃんたちには会えないんだと思い知らされるようだった。
夏の忘れ物を探しに
夏の忘れ物した、いつ忘れたのか、でも何を忘れたのかさえ何も分からない。
ただ忘れたあの日から、胸の中に何ともいえない寂しさがいつも燻ってる。
自分は夏に何を忘れてきたのだろうか?
だから探しに行こう。少なくとも後悔し続けるよりは幾らかマシだろうから。
何を忘れたかも分からない、でも忘れてはいけない大切なものだったことは分かるから…
8月31日、午後5時
あぁ夏が終わる。そんなことを考えながら家路に就く。
夏は今日で終わるわけじゃない。
その証拠に明日も熱中症に気をつけろと天気予報で言っていた。
それなのに今日は夏の終わりの様な気がしてしまう。
いつも夏の終わりはなぜか寂しい気持ちになってた…
8月31日の時刻は午後5時、明日もどうせ暑い。
夏はまだまだ終わりそうにない…