#22 心の灯火
「君には無理だよ」
その一言で、涙が流れた。
その涙で
心が濡れて何かがスっと消えていった。
消えないように
消さないように
毎日毎日頑張ってきた。
必死に足掻いてきた。
でも、心の灯火ってこんなにも
簡単に消えてしまうのか。
いや。
自分はそんなんじゃ挫けない。
そう言い聞かせて、心を新たな火で
灯した。
しぐれ
#21 開けないLINE
「LINE♪」
誰かから通知が来た。
しかも3件続けて。
「今暇?」
最後の文章だけがポップアップされた。
え、暇だったらなんだろう。
内容によっては暇じゃない。
今LINEを開いて既読をつけてしまっては
「暇」と認識されてしまうだろう。
でも、この前に送られてきた文章の中に答えがあるのかもしれない。
気になる。
開いてやろうか。
いや、待て。
「〇〇について聞きたいんだけどさ……」
「今〇〇と遊んでてさ……」
の2択がこいつの場合ほとんどだ。
開いて答えてしまえば早いのだが、こいつと関わるとろくでもないと心が騒いでいる。
だから僕はそっとLINEの通知を見ないフリした。
心の通知に既読をつけて従うことにした。
しぐれ
#20 不完全な僕
「あなたってそういうところがダメだよね」
そう言われても「だから何」としか思えない。
その一言って結局個性を否定しているし、
自分の価値観を遠回しに
押し付けているだけじゃないのか。
別にそれを直したところであんたに利はないし。
それを言うあんただってダメなところはあるだろう。
なのに他人に対してはそういう言い方をして
自分は悪くない。
私はあなたのそういうところが嫌い。
と言ってくる。
他人を否定するその性格に対して
そのままそっくり言い返してやりたい。
そう思いながら右から左へ受け流す。
完璧な人なんてただのロボットだと思う。
不完全だからこそ他人の失敗を許せるし、
自他を認めることができる。
不完全な人間の方がよっぽど人間らしいじゃないか。
しぐれ
#19 香水
「この花の名前知ってる?」
君が教えてくれた好きな花は
甘くて優しい果実のような香りがした。
秋が深まり、森は赤や黄色に染まるこの時期。
この香りを嗅ぐだけであの日のことを思い出す。
いつしか僕もこの香りの虜になっていた。
香水も、ハンドクリームも買ってみた。
いつでも君を思い出せるように。
忘れないように。
君に出会えたことで僕の人生は救われたよ。
「ありがとう」
お盆は過ぎてしまった。
けど、この金木犀を君に見せたかったんだ。
またどこかで会おうね。
白く細い煙とともに甘い香りが天に昇る。
本当の愛を教えてくれた君に贈る
初恋の香り。
しぐれ
#18 言葉はいらない、ただ・・・
「愛されたかった」
今年で35歳。もういい大人が
こんな言葉を吐くなんてね。
誰からも愛される人になって欲しいって
「愛佳」って名前付けてくれたらしいけど
つけた本人は愚か、家族には
「お前なんていなければよかったんだ」
そう言われるのが日常茶飯事だった。
「愛ってなんだろう」
元彼には金づるにされた挙句、
愛だとか言い放ってDVの毎日。
最終的には警察に御用になって
そこからはお互い会ってもいない。
でも、本当の愛を知らなかった私からしたら
そんな毎日も幸せだった。
金づるでもいい。誰かから必要とされていたことが
私にとっては最幸なことだったんだ。
言葉で言うのは簡単だけど、
本当の愛を教えて欲しかったな……。
しぐれ