白井墓守

Open App
2/21/2026, 11:02:12 PM

『0からの』

0からのスタートだ、何もかも。
……だからって微生物からの地球創造は可笑しくない?

○○○

『チートで転生したい? なら、その世界は自分で作ってね』

僕は死んだ。そして、それが神様の手違いだった。
どんな風に転生したい?
そう聞かれた僕はチートが良いです! と答え、そして、神様に上記の言葉を言われ、言葉を返す間もなく荒野に一人立たされている。

目の前には海。偉大なる海。
魚は居ない。陸に動物も居ない。
居るのは微生物のみだ。

「……うっそだろ」

【急募】微生物から世界を作る方法【ネタじゃない】

ネットの2525ch板が、喉から出るほど欲しくなった。
異世界転生チートって、現実だとこんな風になるんだ。

途方に暮れる僕が居た。
暮れすぎて、涙すら出ない。

みなさん、僕からのお願いです。
せめて僕みたいにならないように、うっかり死んでも迂闊にチートとか浮かれて頼まないで下さい。
さもなくば、僕みたいに世界想像から始めることに、なります。


おわり

2/20/2026, 10:04:00 PM

『同情』

同情が嫌いだ。同情するなら、金をくれ。
しかし、同情しないから金を出せ、と言われたのは人生ではじめての経験であった。
…………は?

○○○

冬だというのに温かい陽気の中、僕は外に出た。
二月、雪が降ることもあるなか、早めの桜が民家に咲いている。
僕はそれを微笑ましく思いながら、散歩していた。

ふと、十字路を曲がった先。嫌なものを見た。

……高校の同級生の頃からの連れである腐れ縁の友達だ。
良い奴ではあるのだが、どうにも癖のある変人で、テストで百点以外を見たことがないが、常に突拍子もない事をしだして、僕の宿題を毎日写して凌いでいた。

春の桜の雅さが、彼を見ているとどうにも薄れる。
別の道を行くべきか……。

悩んで突っ立っているのが、悪かったのだろう。
庭に水をやっていたご婦人から、悪意無く水を掛けられてしまった。

張り付く前髪、ぐっしょりと張り付くシャツ。
暖かな陽気とはいえ、冬の寒い風がいっそう身に染みた。

申し訳無さそうに謝る婦人に対して、こちらも丁寧に謝る。
いつもなら避けられた。目の前の事に思い悩み、ぼーっとしていた自分が悪いのだ。

婦人との邂逅を終えると、すぐそばに、僕が水を被る事となった彼が立っていた。

「災難だったな」
「……同情すんな。同情するなら、金をくれ」
「同情はしない。だから、お前が金を出せ」

「…………は?」

「今、ちょっと手持ちに金が無くてな。なに、あとで利子をつけて十倍にしてやるから」
「……何に使うの、そんなの」
「ちょっとダンゴムシを繁殖させたくてな」
「……公園に行ってろよ」
「一匹、二匹ならともかく、数千、数億のダンゴムシが必要なのだ。公園からダンゴムシを死滅させる訳にもいくまい?」

彼が眉をくいっと、僕に向けた。コイツ、わかってないな。みたいな視線に腹が立つ。わかるか、んなもん。分かっても分かりたくないわ。

横暴で自信家でマイペースで、意味分からない行動をする彼。
おおよそ、人に物を頼む態度ではない。
彼に悪気はないのだ。だって彼は知らない。
おそらく、人に物を頼む態度を、必要としてこなかったためだろう。僕は、それに十分心当たりがあった。

「……いくらなの?」
「最低百万、上限は一億だ」
「一億なんて出せるか、……二百万なら」
「取引成立だ。良い商売をしたな?」

彼が満足げに去っていく。
僕はそれを、何も言わずに見送った。

○○○

後日、とあるニュースが話題になっていた。
『ダンゴムシで利益三兆円!! 若手天才ビジネスマン!』
どうやら、アイツはやってやったらしい。
小難しいことが書かれており、よく分からなかったが、どうやらアイツはダンゴムシを使って世界の進歩を一歩進め、莫大な財産と地位と名誉を得たらしい。
僕は何も驚かなかった。昔からこういうヤツだと知っていたからだ。

僕は手に入れた二千万円で、年老いた両親の家をリホームした。前々から、家にある階段が辛いと相談を受けていたのだ。
両親の笑顔に僕も嬉しく思う。
二千万なんて、到底、僕の平凡な稼ぎでは無理だった。
少しは、あの突拍子もない彼に感謝しても良いかもしれない。

そんなときだった。
彼から電話が掛かってきた。

「ちょっと人手が足りなくてな。少しの時期で良い、手を貸してくれないか。バイト代は弾むぞ」
「……良いけど、どこになの?」
「——火星だ」

「…………少し、考えさせてほしい」
「明日までに決めてくれ。では、宜しく頼む」

——僕は同情が嫌いだ。

急に話は変わるが、僕には婚約者が居る。
もうそろそろ結婚したいと考えているが、結婚にはどうにも金がいる。
しかし、結婚式は人生に一度きり。僕の顔は変えられないが、せめてお金に糸目をつけずに、したいようにしてほしい。お金の心配をして、妥協する彼女を僕は見たくなかった。
だが、無い袖は振れない。だが、ある袖はあるのだ。

もう一度、言おう。
——僕は同情が嫌いだ。同情するなら、金をくれ。

……どうやら、僕は火星に行くことになるらしい。


おわり

2/19/2026, 9:29:33 PM

『枯葉』

しゃくり、しゃくり。
これは枯れ葉を踏む小粋な音、ではない。

しゃくり、しゃくり。ごっくん。
目の前の化物が枯れ葉を食み、飲み下す音である。

○○○

今は冬。つとめて、つまり朝が趣深いと過去に生きる者が語った、冬の早朝のこと。
まだ人々が寝静まる中、私は趣味で書いている執筆の具合が良くなく、ふと気分を変えるために散歩にでも出かけるか、と家を出て、いつもの散歩道を歩くなか、ソレに出会った。

ぶよぶととした線の不確かなな躰、ぎょろりと複数の視線が忙しなく動くカラフルな目玉、人間一体分はまるまる入りそうな大きな口に、似合わないほど純白な白い欠けの無い大きな歯。

化物は、しゃくりしゃくりと枯れ葉を食んでいる。

——いや、これは本当に枯れ葉か?

そもそも今は真冬だ。
先日、雪だって降った。積もった雪で近所の子供が雪だるまを作って遊んでいたのを覚えている。

では、私が枯れ葉だと思っていたものの正体とはなんだ?

強く頭が警鐘を鳴らし続ける。
見てはいけない、知ってはいけない。

……戻れなくなるぞ。

ごくりと口に溢れる唾を飲み込む。心臓が金のようにバクバクと打ち鳴らし、ハァハァと呼吸が乱れている。
心臓を掴んだ手は指先が白くなり、瞬き出来ない目に充血がたまる。

猫は好奇心で死ぬという、
ならば、作家は猫の一種なのだろう。

知らねば生きられるというが、作家という生き物は、難儀なことに知らねば心が死ぬのだ。

そして私は見た。
見てしまった。

……枯れ葉の正体は——。

くしゃり、くしゃり、ごくん。
私の視界は真っ暗になり、体の感覚は虚空の闇へと消えた。


おわり

2/18/2026, 9:01:38 PM

『今日にさよなら』

今日にさよなら、明日にこんにちは。
そして、お前とクロスカウンター。

○○○

男には、どうしても譲れないものがある。
——女だ。

クラスのマドンナ、リリちゃん。
『私、強い男が好きなの』

その一言で全ては始まった。
不良校と言われる、この高校で。誰が一番強い男かを決める決定戦が勃発。

最後に残ったのは、俺と親友の二人だった。

「やっぱ、おめぇが残ったかよ……」
「ああ、そうだ」
「へっ。オレっちは、負けるつもりはねぇぜ。恨むなよぉ~」
「それは俺の台詞だ」

親友はヘラヘラした顔をしているが、目だけが強く生命力の強い蛇のように光っていた。
肉体的には俺の方が上だ。だが、親友は蛇のようにトリッキーな動きをする。
細めの体格に油断した不良達が、次々と狩られて行ったのを知っており、俺の体に緊張が走る。

——勝負は一瞬だった。

どちらも動けぬ攻防。視線での読み合い。
……次で決めよう。
お互いにボロボロになりながら、目線だけで会話した。

そして決まったクロスカウンター。

ガンガンと鳴り響く頭痛に、鉄の味が広がる口内。熱された鉄板のように熱い身体に、倒れそうになるが気合で持ちこたえようとする。

絶対に勝つのだ、俺が。

そんなときだった。
またもや、クラスのマドンナであるリリちゃんが言った。

「でも、やっぱりぃ、リリはお金持ちが良いかなぁ」

ふつりと切れた精神の糸、薄れゆく視界に親友の呆けた顔が見える。お前もか、分かるぜ、その気持ち。親友。

クロスカウンター。
今日にさよなら、明日にこんにちは。

愚痴なんて男らしくないが、今だけは。
一言だけ言わせてくれ。

——そりゃ、無いぜ。リリちゃん。


おわり

2/18/2026, 12:32:40 AM

『お気に入り』

お気に入りのカップ、お気に入りの本、お気に入りのぬいぐるみ、お気に入りの場所、お気に入りの言葉。
人には、それぞれたくさんのお気に入りがある。

……だけど、それがなんだっていうんだ。

○○○

「お気に入りって、なんだと思う?」
「なぁに?? 哲学的な問題? むつかしぃ~!」

僕の問いに、目の前の幼馴染はヘラヘラと笑った顔で変顔を向けてくる。
思わずイラッとしたので、脱色しまくってキシキシになった髪を引っ張ってやった。

「いたぁーい」
「嘘つけ」

チっと軽く舌打ちをして頬杖をつく。教室の窓は夕暮れの景色を映し出し、空を烏が飛んでいく姿が見えた。

「この席、後ろの窓際って先生に見つかりにくくて良いよねぇ。俺、ここの席、お気に入りだなぁ」
「僕の席なんだが……」
「かーえーて?」
「……先生に言え、先生に。なあ、お気に入りって、好きとは、どう違うんだ」

僕の問いに不思議そうにアイツは首を傾げる。
幼馴染の耳からジャラリとアクセサリーの音が揺れる音がなった。……また、増えてる。

「とっても、好き……みたいな?」
「それは、大好きというのでは無いか?」
「んーと、んーとじゃあ~。なんか継続的に好き、とか?」
「それは、ずっと好きと、何が違うんだ?」
「うーうーーー!!」

しまいには頭を抱え込んで悩んでしまった。
……結局、お気に入りなんて、こんなものか。
どこか肩透かしのような落胆してつまらない気持ちに、唇を尖らせる。僕はいったい、何を期待していたのだろうか。

「あ! わかった!!」
「…………何だ?」

あまり期待せずに、目線だけそちらに動かした。
アイツはキラキラとした真ん丸な大きな瞳と、ニンマリと大きく笑った唇を開く。

「俺専用です!! みたいな! 好き!!」
「は? それは……それは、その……」

上手く言葉が出なかった。何かが違うような、だけど何かが掠って触れているような。そんな気がしたから。

「だからね、俺は、君がお気に入りの友達だよ!! 幼馴染だし!! 俺専用の好き!!」

アイツの屈託ない笑みに、目を丸くする。
思わず口元が緩みそうになり、手で抑えて隠す。

「そうか……」
「うん」
「そうか」
「うん!!」

「お気に入りって、良いものだな」
「えへへ!」

「帰ろうか」
「うん!」

きっと、大人になったら色んな事が変わっていってしまう。
会わなくなる人が増えて、好きが好きじゃなくなっていって。
じゃあ、そんな感情になんの意味があるんだろうか。
そんな事をふと考えて……不貞腐れて。
そして、いま。気づいた。
あぁ、でも。僕は未来じゃなくて、現在を生きているんだと。

だから、きっと、これでいい。
いつか変わってしまうとしても、過去が変わらないなら。
僕の事をお気に入りと言ってくれたことを、嬉しく思おう。
嬉しく思ったことを、忘れないでいよう。

沈む夕陽を見ながら、帰り支度を急ぐ幼馴染の隣で、そう思ったのだ。


おわり

Next