鳥かご
鳥籠の中の小鳥は、
まるで囚われの姫君の様で、
可哀想だと、思っていた。
だけど。
鳥籠から飛び出したとしても、
外は、余りに危険だらけで、
小鳥は無惨な死を遂げるだけだろう。
一瞬の自由を求め、
その生命を捧げるのか。
生命を永らえる為に、
不自由を受け入れるのか。
広い世界を知らなければ、
狭い鳥籠の中が世界の全て。
鳥籠の中と鳥籠の外。
どちらが幸せかなんて、
俺には解らない。
…だから、俺は。
外の世界なんか、知らない振りをして、
餌だけは与えてくれる飼主の下で、
鳥籠の中でくるくると踊る、
青い小鳥で居ようと思う。
友情
いつもお前は、俺の隣にいてくれて。
いつの間にか、俺には、
それが当たり前になっていて。
俺は何処か自信なさげなお前を励まし、
お前は常に忙しい俺を支えてくれる。
困った時には、お互いにフォローして、
時にはライバルとして競い合う。
友情とは、素晴らしい。
俺たちは当にそんな関係。
そして、お前は。
優しく微笑んで、
何故か少しだけ恥ずかしそうに、
俺に言うんだ。
…君は、大切な親友だから。
と。
親友。友情。
それは素晴らしく、
だが、時には残酷な言葉だ。
何故なら、俺は。
お前と親友以上の関係になりたいと、
密かに思い続けているのだから。
花咲いて
ずっと貴方が好きでした。
多分、オレがそんなことを言っても、
貴方は信じないだろうけど。
貴方と初めて会ったとき。
オレは絶望の中にいて。
貴方の気遣いも優しさも、
全部嘘だと思ってて。
そんなオレを、
貴方は見捨てず、
そっと遠くから見守っててくれた。
だからオレは死なずに済んだ。
花咲いて。
そして、いつか花は散る。
密かに咲いた貴方への想いも、
気付かれないまま、いつか、散る。
それまでは。
貴方の足元でひっそりと咲く、
花で居ようか…と思うんで。
どうぞよろしく。
もしもタイムマシンがあったなら
過去に戻れたなら。
やり直したいことは、沢山あります。
後悔していることも、
呆れ返る程、抱えています。
最早抱えきれなくて、
逃げ出したくなる程の後悔と悔恨が、
私を日々苛むのです。
もしもタイムマシンがあったなら。
私は貴方を助ける事が出来るのに。
私は貴方を取り戻す事が出来るのに。
そんな、あり得ないことを考えては、
変えようもない現実に、
絶望するしか出来ません。
過去に戻ることは、出来ません。
どんなに強く望んでも。
ですが、変えられる筈の、
私の未来には、
全く希望はないのです。
戻れない。
変えられない。
ならば…。
いっそ、消えてしまいたい。
そう思わずには居られません。
今一番欲しいもの
正直言えば、欲しいものは、
山ほどある。
焦げにくいフライパン。
目覚まし機能が便利な時計。
カードが取り出しやすい財布。
歩き易くて恰好良い靴。
部屋のドアの軋みも直したいし、
庭のホースもかなり古くなってる。
レンジフードも取り替えたいし、
毛玉だらけの毛布も何とかしたい。
だけど。
どれもこれも。結局、
ホントはそんなに、
欲しくないんじゃないかって。
じゃあ。
オレが今一番欲しいものって、
いったい何なんだろう。
そんな事を考えながら、
オレは慣れた手つきで、
トマトとチキンを切ると、
ブイヨンの入った鍋に放り込む。
…あ。分かった。
オレが今一番欲しいもの。
それは。きっと。
あいつの笑顔、だ。
そろそろ日が暮れる。
もうすぐ、夕食の時間だ。