朝起きて、気がついたら涙が出ることが最近よくある。
大切だったひとがいなくなる瞬間に目が覚めて、気がついたら泣いている。
このところ毎日この夢を見る。
ひどい夢だ。
もう忘れたいのに、頭が忘れてくれない。
「どちら様ですか?」
そう言ってあなたはにこりと笑う。
その笑顔が、どうにも以前と変わらなくて苦しくなる。
「ごめんなさい、本当に思い出せないの。」
そうやって苦笑いするのも前と同じだ。
「俺はあなたの恋人です。
一緒に居ましょう。そうすれば記憶が戻るかもしれないって先生が言ってましたから。」
「あなたが、わたしの……
わかりました。わたしも記憶が戻るように頑張ります。」
それから春が過ぎ、夏が来て、2人で早朝の海に行った。
「戻りませんね、記憶。」
「いいんです。あなたはあなたです。
どうなったって愛することには変わりません。」
「ふふ。幸せだったんだろうな、昔のわたし。」
「じゃ、今は?」
「あなたは意地悪ですね。もちろん、幸せですよ。」
さざめく波を見ながら、2人で肩を寄せ合った。
昇っていく朝日をぼーっと2人で眺めて。
夏が過ぎ、少し肌寒くなった頃。
2人、並木道で散歩しながら。
「まだ戻らないですね。」
「いいんですよ。戻らなくたって。
俺が愛するのはあなただけなんですから。」
「そんなこと言われて、昔のわたしが嫉妬しちゃわないかしら。」
「はは、それは困るな。」
もっと寒くなって、雪の日。
「はぁ。もう戻らないのかな。」
「いいんです。だから、泣かないで。
戻らなくても、俺の愛するあなたなんです。」
「ふふ。優しくて、意地悪で。
昔のわたしはそんなあなたを好きになったんですね。」
それからいくつの季節がすぎて、65年。
「ねぇ、あなた。
わたしの記憶はもう戻らないけれど、あなたに愛されて、わたしは幸せでした。そして、わたしもあなたを愛していた。
記憶なんて関係なかったって、今なら分かりますよ。
だからね、お空でわたしを待っていてください。
もう少ししたらそちらに行きますね。」
もう二度と会えないあなたへ
お空ではげんきですか?
ご飯は美味しいでしょうか。
あなたの居ない世界はどこか足りなくて、くすんでて、涙みたいな寂しい香りがします。
ふとこの世界にあなたは居ないんだって思うと、胸がきゅっとなって、寂しい。
あなたに会いたい。
会って抱きしめてほしい。頭を撫でてほしい。
わたしに会いたいって、思っててほしい。
届かないって分かってるのにな。
もう一度会いたいわたしより
よく夜の海を見る。
ただぼーっとして、星を見ながら悲しみに浸る。
そんな時間が好きだ。
ただ真っ黒な海と無数に広がる星空、波の音。
悲しみに寄り添ってくれてる感じがする。
少しだけ楽になったかな。
帰るか。
あいつが太陽だったとしたら、おれは誰にも知られないような小さい星なんだろうな。