今日は海の日
うららかな夏の日だった
髪を乱す風が心地良かった
身体は透明に染められた
このまま私の何もかもを
吹き飛ばして、攫っていってよ
鳥になって高く飛翔する
縛られない自由を夢見る
風をとらえた翼をはためかせる
髪を解きたくなったの
なびく黒に櫛はいらない
人魚姫は、泡になって消えるんだっけ
最後は、風の精になるんだっけ
生まれ変わったら人魚になりたいと思っていた
そんな頃もあったな
私は泳ぐのが下手だった
泡沫に溶けたかった
潮が出迎えてくれた
口をひらけば涙の味
きっとたくさんの人が
ここで泣いたのね
遠くなる水面に射し込んでくる
暑い暑い夏の光が
人生で一番美しい景色だった
今日は、海の日。
#終わりにしよう
指の長いあなたのつくる
キツネさん
爪の長いわたしのつくる
つばめさん
ひらひら、ひらひら
つばめを飛ばす
コンコン、コンコン
キツネは探す
つかまえた!とあなたは笑った
捕らえられたつばめはキツネのとりこ
街灯のした
ふたりだけの影遊びはおしまい
キツネはもう、つばめを離さない
寒いね、帰ろうか
ポケットの中は巣みたいに暖かい
#手を取り合って
どんぐりの背比べだねと笑われて
「そんなわけない」が喉に詰まって
返したおかしな愛想笑い
初めて気付いた
ずっと甘い優越感を食べた口で
あなたと話していたこと
私と同じだねと笑ってくれる
隣を歩くあなたの顔は見えない
今まで私のお腹を満たしてくれるものは
あなたの笑顔と優しさだと信じていた
今になって虫歯が疼きだす
劣等感が私の白を蝕む
痛くて痛くて
たった「ごめんね」のためにさえ
口をひらけない
あなたの笑顔はずっと眩しい
あなたの優しさはずっと温かい
でもあなたは私みたいにはなれない
あなたと私は同じじゃない
痛い
私はあなたにはなれない
#優越感、劣等感
曲がったひげと
くすんだ白と
絡む毛玉と
くせのついた毛並み
飛び出た綿と
縫われた跡と
ほつれかける糸と
色あせたタグ
汗の匂い、涙の匂い
布団の匂い、私の匂い
洗濯の後の、日向の匂い
ベッドが狭くなったこと
窮屈さが嬉しかったこと
旅先の景色を見せたこと
眠れない夜にしがみついたこと
涙を拭ってくれたこと
あたたかかったこと
一緒にいる年数を数えたこと
いつしか片手で持っていたこと
抱きしめたとき、なんだか小さく感じたこと
お裁縫を覚えたの
ちょっと痛いかもしれないけど
少しの辛抱ね
もうお母さんは縫ってくれないわ
#これまでずっと
たったひとつのメッセージ
風に乗れない紙飛行機
下書きまでしたのに
読み返して、✕を長押し
文通をしてみたいと思うの
青い便箋に心を描くの
消しゴムも✕もいらないわ
窓を開けて
インクが乾くまで雲を眺めるの
風を受ける翼をつけたら、
ほら完成
紙にインクを滑らすとき
心の形が見える気がするの
色は少し滲んでしまったけれど
それは私の手が、心に素直だから
無機質な画面の中は
風がないものね
青い紙飛行機
その翼で、きっと、届けてくれるよね
画面にはおさまりきらない、私の心
#1件のLINE