曲がったひげと
くすんだ白と
絡む毛玉と
くせのついた毛並み
飛び出た綿と
縫われた跡と
ほつれかける糸と
色あせたタグ
汗の匂い、涙の匂い
布団の匂い、私の匂い
洗濯の後の、日向の匂い
ベッドが狭くなったこと
窮屈さが嬉しかったこと
旅先の景色を見せたこと
眠れない夜にしがみついたこと
涙を拭ってくれたこと
あたたかかったこと
一緒にいる年数を数えたこと
いつしか片手で持っていたこと
抱きしめたとき、なんだか小さく感じたこと
お裁縫を覚えたの
ちょっと痛いかもしれないけど
少しの辛抱ね
もうお母さんは縫ってくれないわ
#これまでずっと
たったひとつのメッセージ
風に乗れない紙飛行機
下書きまでしたのに
読み返して、✕を長押し
文通をしてみたいと思うの
青い便箋に心を描くの
消しゴムも✕もいらないわ
窓を開けて
インクが乾くまで雲を眺めるの
風を受ける翼をつけたら、
ほら完成
紙にインクを滑らすとき
心の形が見える気がするの
色は少し滲んでしまったけれど
それは私の手が、心に素直だから
無機質な画面の中は
風がないものね
青い紙飛行機
その翼で、きっと、届けてくれるよね
画面にはおさまりきらない、私の心
#1件のLINE
目が覚めたとき
遠のいていく夢の断片を手繰り寄せる時間
ホワイトパズルをはめるような虚ろのなかに
失いたくない何かがあるような気がして
言えなかったごめんなさいが
重くてまだこびりついていていて
唯一、時間を巻き戻せる世界だから
夢のようなフィクションを歩けるの
仮初の理想郷を踏んだ足は
絡みつく毛布を拒絶して
ごめんなさいが言えた私は
言えなかった卑怯な私を蹴飛ばしてくる
分かっているの
あの子には、もう会えないことを
それでも
ホワイトパズルを、諦められなくて
#目が覚めると
深夜の、高台にある公園が好きだった
ブランコを揺らしながら、街を見渡すの
勉強、読書、通話
眠れない人、眠りたくない人
街の明かりひとつひとつに、生活が詰まっているのね
お風呂の湯気や作り置きのカレーの香りも
夜風に漂う生活の一部なのね
私の部屋の明かりは、今は消えている
少しだけ、逃げていたいの
明かりのない部屋にも
眠れない人はきっといるのに
夜の闇に紛れてしまうから
私からも見えないの
見たくないものに蓋をするために
この公園にいるのかしら
ブランコの軋む音
誰も聞かないでいて
#街の明かり
霧がたちこめる。
白く、淡く、霞んでゆく。
周りには誰も居なくなった。
迷ってしまったのは、仲間たちではないだろう。
私が自分で道を外れて、助けを求めずに独りで歩き続けて、自分で自分の首を絞めているだけのことなのだ。
道を間違えた。
自分で選んだはずだった。
それなのに、あの人たちとは進む道が違ったのだということを、未だに受け入れられずにいる。きっともうとっくに、青空の下で光を浴びているのだろう。私一人を抜いただけの、あの仲間たちで。
人知れず茨の道を選ぶ私は、ひどく意地っ張りだ。
何だって一人でやってみせたかった。
一人で茨を切り開き、一人で濃霧を振り払ったことに、誇りを持っていたいのだ。
湿度、嫌な汗、手に付いた泥、
見えない道の先、堪える涙、それでも止めたくない足。
先が見えずとも、どれだけ遠回りでも、
いつか必ず辿り着いてみせるの。
人とは違う道筋だって、近道が分からなくたって、
時間をかけて歩き続けるの。
私なりの歩み方で見つけた、青空の下へ。
#この道の先に