ボトルメッセージって知ってる?
そうそう、あの海に流すやつね。
ここってさ〜、海行くまで電車乗らなきゃじゃん?
だから、私思いついたの!!
紙飛行機に想いを書いて飛ばすの!!
今日は風強いし、絶対上手くいくと思うんだよね〜。
ほいっ!!
あっ、紙飛行機川に不時着した。
まっ!川が私の想い受け取ったってことだよね〜!!
何事もポジティブが大事、明日も頑張ろ!
ザッブ~ン!!ザッブ~ン!!
ねぇねぇ!■■ちゃん海、行こ!!
私波の音大好きなんだよね〜、落ち着く感じがする!
そう言えば、あんなこと言ってたな…
あれから数年が経ち、彼女には何度目かの夏がきた。
彼女はいつも唐突に物を言う。
あの日だってそうだ。
あんなに海が好きだったのに、今は嫌いって言うし。
この日になると、必ずこの海岸で涙を流す…
(■■ちゃん、私あなたのこと恨んでないよ。海、誘ってくれてありがとう。初めて友達と海に行って楽しかったんだよ…だから、もうそんな顔しないで)
私の声は彼女には届かない。
どれだけ、私が大きな声を出しても
波の音でかき消されてしまう…
朝になると大半の人は、カーテンを開けるだろう。
でも、そんな簡単なことも億劫になるときがある…
そんなときは、思いっきり自分を甘やかそうと思う。
それはきっと、今日まで自分が一生懸命頑張ってきた証拠だからだ。
(おばあちゃん、あのお話して!)
祖父母の家に遊びに行った時
私は行方不明になった祖母にあるお話をよく聞かせてもらった。
そのお話は、祖母が人魚に会ったという話だった。
今思い返すと、きっと子供だましの
祖母が作ったお話だったのかもしれない。
でも、私は疑わなかった。
いや、疑えなかった。
祖母の瞳は真っ直ぐで、嘘をついているようには見えなかったのだ。
そんな私は、高校生になっても暇があると海に行くようになった。
とある日、いつものように海へ行くと、人魚がいた。
青く深い瞳は、私の心を虜にした。
私は、走り出した。
一心不乱に走り、人魚の腕を掴みこう言った。
(やっと会えたね、おばあちゃん!)
近づいてくる、夏が。
ミーンミーンと、蝉の鳴き声が周りの音をかき消すほどうるさく聞こえる。はずなのに…
踏切の音と、一緒に近づいてくる電車の音が、頭に響く。
カーンカーン、ガタンゴトン、キーッ、ドンッ
あの時の、あの音が、嫌でも思い出される。
…ねぇ、■■ちゃん。
あの時、私の方を見て笑ったのはどうして?
私は夏の気配から、いや彼女の気配からは逃げられない。
ゆっくり、確実に彼女は近づいてくる。
そして、じっとりとした血のついた指を私の顔に触れ、こう言う。
(ねぇ、─好──よ)
肝心な言葉は、蝉の鳴き声で聞こえない。
だけど、この言葉はきっと私を縛る呪の呪文なんだろうな…