別れ際にキスをした。
「んっ、付き合おうか」
触るだけのキスをした。
それ以外も沢山した事があったが、少しドキドキした。
結果だけ伝えると、何故か振られた事になっていた。
相手の事を好きかと聞かれるとグレーで、好きになれたらいいなと前向きに思っていた。
その後に、ある事ない事を言いふらされた。先生まで知っているぐらいに。
好きだと言われた。
断ったが、「友達でいいから断らないで。好きになって貰えるように頑張るから」と言われた。
その後、卑怯な手も使われたり、色々あった。
デートっぽい事もした。
「気持ち悪いから、近づくな」
これが正解だったんだろうか?
別れ際にキスをした。
学校の立ち入り禁止の階段で。
ホコリが舞う僕の隠れ家で。
「少し考えさせて」
そう言われた。
⬛︎別れ際に
ざざざざっと雨粒が落ちてくる。
リモートワーク中の僕は画面から離れるかを悩む。少しキリが悪いし、集中が切れてしまう。
これが洗濯ものであれば走って取込みに向かうのに。
雨足が強くなる音を聞き、観念して立ち上がる。ベランダがある方は雨が降り込みやすいのだ。
ついでだとコーヒーの準備。
ドリップではなく粉のインスタント。これはこれで嫌いではない。勝手知ったるか適当に入れて、席で胡座を組む。
雨が止んで太陽が出るとむわっと暑くなる。このまま降り続いて欲しいなって思いながら作業を開始する。
まあそんな都合のいい天気はそうそうないんだがね。
⬛︎通り雨
ふとみあげる
⬛︎時を告げる
年に何回か父の実家に行っていた
山があり、川があり、海がある
フェリー乗り場前の土産物屋には色んな物が売っていた
僕はカラフルな幸せの砂をよく買っていた
しかし家に帰ってからそれをどうしていたか全く記憶がない
⬛︎貝殻
目を醒ますとまだ暗くて、朝日が上がるまでしばらくかかる未明。
ベットから降り、トイレを済まし、キッチンの小さな琺瑯鍋でお湯を沸かす。
硝子のポットの上にコーヒードリッパーを乗せ、フィルターの端を折りながらぼんやりする。
前までは豆を挽くところから作業していたが、最近はなんか億劫で挽いてあるモノを買っている。豆を挽くところからはじめるのは楽しいが、今はそういう周期なんだと思う。
セットしたフィルターに沸いたお湯を掛けて、全体を湿らせる。
挽かれた豆を入れ、中央に指先を突っ込み、「クルペッコ」と呟く。
映画で観た呪文を上手に詠唱出来ず、僕が勝手に創り上げた呪文。決してモンスターの名前ではない筈。おそらく、たぶん。
ポットに溜まったお湯を捨てるとシンクから「べコン」と朝の挨拶。
ぐしゅぐしゅと音をたてる熱湯を計量カップに移し、粉を湿らせていく。
どうでもいいが、他にも呪文はある。
何度も心を込めて「ありがとう」と言いながらお湯を垂らしていくモノで、出社支度でバタバタと忙しい彼女の爆笑を掻っ攫った。
ソレはたくさん氷を詰めた350mlの水筒に入れて持たせてあげた。
全体にお湯が行き渡ると、豆がふっくりと起き上がる。
こちらはシンクと違って声を掛けてはくれないが、小さな気泡が暗いキッチンの弱っちい光で屈折。
⬛︎きらめき