目を醒ますとまだ暗くて、朝日が上がるまでしばらくかかる未明。
ベットから降り、トイレを済まし、キッチンの小さな琺瑯鍋でお湯を沸かす。
硝子のポットの上にコーヒードリッパーを乗せ、フィルターの端を折りながらぼんやりする。
前までは豆を挽くところから作業していたが、最近はなんか億劫で挽いてあるモノを買っている。豆を挽くところからはじめるのは楽しいが、今はそういう周期なんだと思う。
セットしたフィルターに沸いたお湯を掛けて、全体を湿らせる。
挽かれた豆を入れ、中央に指先を突っ込み、「クルペッコ」と呟く。
映画で観た呪文を上手に詠唱出来ず、僕が勝手に創り上げた呪文。決してモンスターの名前ではない筈。おそらく、たぶん。
ポットに溜まったお湯を捨てるとシンクから「べコン」と朝の挨拶。
ぐしゅぐしゅと音をたてる熱湯を計量カップに移し、粉を湿らせていく。
どうでもいいが、他にも呪文はある。
何度も心を込めて「ありがとう」と言いながらお湯を垂らしていくモノで、出社支度でバタバタと忙しい彼女の爆笑を掻っ攫った。
ソレはたくさん氷を詰めた350mlの水筒に入れて持たせてあげた。
全体にお湯が行き渡ると、豆がふっくりと起き上がる。
こちらはシンクと違って声を掛けてはくれないが、小さな気泡が暗いキッチンの弱っちい光で屈折。
⬛︎きらめき
9/4/2024, 11:59:34 AM