夜。
私は夜が好きじゃない。
小さい頃はこの暗闇に何か隠れているんじゃないかって思って怖かった。今は私が闇に飲み込まれるんじゃないかって怖い。私以外を認知させない闇は孤独だ。
夜でも世界がキラキラしていてほしくて、水商売もしたけれど、ダメだった。明るすぎて、その明るさがない時がしんどすぎる。毎日キラキラできるほど私は強くなかった。
SNSのタイムラインも寝静まる真夜中。今夜もみんなの「寝れない」「睡眠失敗した」に、私だけじゃないと安堵する。
だめだこりゃ。コンビニ行って酒でも買おう。
私にはこのクソみたいな寂しさと共に生きていく覚悟が決められない。
#真夜中
カツカツとみんなの鉛筆の音が鳴り響く。
私の手はあと1問を残して手が止まってしまった。
海を「こうかい」する。
宿題の範囲の漢字テストが解けない。
海をこうかいする。か……。
公開、公会、紅海、後悔
書ける「こうかい」をテスト用紙の端に書いてみたけど、宿題で書いたのは違う。
かいが海だったのは覚えてる。あと、海を船で進むから、舟が左にあったのも覚えてる。船、うーん、船はとっくの昔に習った漢字だし。
斜め前に座る級委員長をチラリと横目に見る。カンニングがしたい訳では無い。ただの現実逃避だ。暇そうに時計を見てるなぁ。私もそうなるつもりだったんだけどなぁ。
「あといっぷーん」
先生の声で誰も彼も静かになっていた鉛筆が動き出す。
海を「公開」する。
テストはばってんかもしれないけど、書かないよりはマシかな。
プライベートビーチをおひろめするときなら「海を公開する。」でも通じるんじゃないかな?だめか。
「はいおわりでーす。鉛筆おいてまわして」
後ろの席からのテスト用紙と一緒に「できたー?」という声も回ってくる。「1問わかんなかったー」と苦笑いしながらさりげなくテストを見る。
そっか。「航海」か。舟へんも海もわかってたけど、亢かぁ。
おしい所まできてたじゃん。
航海、航海、航海。
漢字テストのなおしで沢山書くことになるのいやだなぁ。やっぱり全問正解したかったなぁ、漢字ドリルもう少し見ておけばよかったと私は後悔した。
あーあ。習ってない漢字の「こうかい」なら書けるのになぁ。
#後悔
みんなが言うおうち時間は、自分の家にいる時間のことらしい。出かけずにいろってことらしいね。
おうち時間、マジで虚無じゃん。
家にいるだけで偉いみたいな雰囲気、なんなんだろうね。まあ、ずっと家にいればウイルス貰ってこないってのはわかるよ。えー、でも無理すぎん?無理なんだけど。
だからさ、ダチからのLINEがマジで最高だったんだよね。
「しばらく泊まりにこない?」
ずっと同じ家族が暮らすのが許されるなら、ずっと同じダチと暮らすのも許されるくね?
すぐ荷物まとめる程度には他人との会話がしたかったんだなって思ったよ。
#おうち時間でやりたいこと
子供のままでいたい。
大人になる前に死にたい。
2人で出かけたあと、居酒屋に寄ると帰る前に毎回そう話す友達がいる。
酒が飲めるようになる前は咳止めをODしていた友達。
その時よりはまだ、お酒に頼っている今の方が健康にいいのかな、と思う。まだマシくらいだけど。
私を一緒にお酒を飲む相手に選んでくれて、とても嬉しい。
大人になっても私の事ずっと頼ってくれていいのに。
#子供のままで
あなたのためにひと針ひと針縫ってゆく。
健康的な献立を学びに料理教室へゆく。
お花もお茶も、多少なら。
時代遅れと言われても、主人を立てるのが私のつとめ。
結婚を公表できないあなただから。
大っぴらには愛は叫べないけど、
私の生活全てがあなたのためなの。
花嫁修行に費やした時間もぜんぶ、それはあなたへの愛の大きさなの。
#愛を叫ぶ。