午後9時55分
酒と眠剤を胃に流し込む。
あと少し経てばこの後の記憶は残らないはず。
酒を一口。はぁーーーーーと深く息を吐く。
今日も昨日も一昨日もその前も、この繰り返し。
そして毎日ここから先の記憶が無い。
気がつくと朝。
始まりは1週間前。
眠剤を飲んだあとにジュースと間違えて缶チューハイを飲んでしまったあの日。
スマホ片手に朝起きると、2時間会話をした記録が。相手は非通知。
枕元にはレシートの裏に殴り書きの私の字で「明日も同じ時間に電話してくれるって!!!!!!!!!」とあるが、もちろん記憶にない。
記憶になくても記録には残ってるから知っている、午後10時の非通知の電話。
「もしもし、どちら様でしょうか。」
明日には相手は誰か忘れてしまうけれども、
それでも、朝起きて枕元にある、楽しそうな私の字が羨ましくて。
楽しそうな私の字が忘れられなくて、最初に電話が来た日と同じことを繰り返す。
記憶にない夜の私に嫉妬しながら、私は今日も電話に出る。
#忘れられない、いつまでも。
ほくろを取った。
ぱっちりした二重にした。
少し変わるだけじゃ満足出来なくて
鼻を高くし、顎を削った。
ダイエットは心がけてなかったけど、
ダウンタイムがしんどすぎて。
ご飯食べられなくて痩せた。
数百万かかった私の顔面。
とてもかわいくなった私。
過去の私はもういない。
この顔でさらに稼がなくては。
メンテナンスは大変なので。
可愛くなるまでの辛抱だと思っていたけれど。
これからはいつまで頑張ればいいんだろうね。
過去の私はいないはずなのに。
気を抜くと、もういない顔が甦る。
呪いのように。
#1年後
初めて恋をしたのは幼稚園の先生。
入園した日に、幼いながらも一目惚れをしたのを覚えている。
ママと離れ離れになってもこの先生といれるなら幼稚園も悪くないな、と思ったから、そんなに行くのを渋らなかった気がする。
そんな私も33歳。
パート帰りに急いで幼稚園のお迎えに行ったのに、当の息子は先生に抱きついて離れない。
「おーきくなったらせんせーとけっこんする!!」
「もー、おうち帰るよ!」
すみませんねえ、と先生の顔を見ると、当時の面影が。
あぁ、血は争えないなあ。
#初恋の日
世界なんかに私の命、くれてやるものか。
私の命のおわりは、私が決める。
あなたの目に最後に映るのが私でありますように。
私の目に最後に映るのがあなたでありますように。
そう願っていたけれど。
できるだけあなたのことを見ていたくて。
結局、世界の終わりとともに私たちの命は終わったのであった。
#明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。
卒業してから何年もあっていなかった友人と帰省のタイミングでばったり出会った。
まだ他人の人生狂わせガールしてるの?と友人は私に問う。なんの事か思い出せずに一緒に遊んでいた大学生の頃を思い返す。恐らく、数ヶ月ごと別の人にストーカーされていた時期のことだろう。
「あー違うの。今はね、他人に人生狂わされてるんだよ」
日々、連絡不精の繋がりからの返事が来ない、心配だから会いに行きたい、という気持ちを抑えて過ごす。ここで一歩踏み出したら、恐怖の対象になってしまう。そのことは自分がよくわかっている。
#君と出逢ってから、私は・・・