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3/2/2024, 11:57:48 AM

これに賭けるしかない。ふとポケットから取り出したのは一つの丸い石だった。目の前には三匹の野犬に囲まれてぶるぶると震える一匹の子猫。 こんな場面に遭遇するなんてどうしたらいい…?

今は大学のお盆休みで田舎の実家へ帰省中である。今日は特に何もやることはなかったが、子どもの頃遊んだ河原に来ていた。幼い頃、父とよくこの河原で遊んだっけ…と思い出が蘇ってきた。父親とは泳いだり、水切りで石を投げてどこまで跳ねていくかと競争したもんだ。
父親は去年病気で亡くなった。俺が大学進学をきっかけに上京してお盆やお正月で帰るだけで、父と必要な会話しかしなかった。小学生の頃は、父と純粋な気持ちで遊んでいたが、中学生になってから友達と遊ぶことが多くなった。そして高校生の時に歌手になりたいという卒業後の進路について意見が合わず、高校三年の夏に大喧嘩した。その頃から父との会話は減ってしまったと思う。優しかったが、生真面目で頑固な性分の父と似た所がある自分はお互いに意地を張って仲直りする機会を失ってしまった。そして上京してさらに距離が出来てしまったように感じた。だが、大学の講義やサークル仲間との付き合い、生活費を稼ぐためのバイトなど毎日が忙しくて目まぐるしく過ぎていった。だが、大学ニ回生の夏、突然姉から連絡があった。
「お父さんが亡くなった…」と明るい性格の姉に似合わない暗い声音だった。「あぁ…すぐ向かう」とだけ答えて電話の受話器を置いた。しばらく頭が真っ白になり放心状態だったことは覚えている。もとより持病はあったが、薬を飲み、近年は落ち着いていると聞いていた。本当に急死だった。葬式を終え、落ち着いた後から母に聞いたが、最初は現実的な進路を考えろと大反対していた父だったが、後になって陰ながら俺を応援していたと聞いた。とういうのも父も若い頃は歌手を志していたが、厳しい歌手の世界に断念した。そんな自分の経験から息子には同じ苦労をしてほしくない、だが自分の夢をしっかり叶えてほしいという気持ちで葛藤していたようだ。「あの人は頑固な所があったけど、本当はとてもシャイで不器用な人だから。あなたに面と向かって頑張れって言えなかったのよ」と母から父親の真意を聞いた。父親の真意を聞いた日は「あの時仲直り出来ていれば…」など後悔と自分への怒りから一晩中泣いた。
あれから1年が過ぎ、気持ちの整理が着いてきた所だ。昨日が一回忌で家族、親戚が集まった。いろんな話に花を咲かせていた。昨日の疲れを多少感じながら今日は気晴らしに出かけた。しばらく河原を歩いていると、ふと一つの石を見つけた。丸くて平らな形の石だった。この石を見つけてから父親との思い出が映画のフィルムのように脳内に流れてきた。深い意味はなかったが、何か父親との思い出を形がある物として持っていたくてズボンの右ポケットに突っ込んだ。

いつの間にか夕方になっており、日が沈む前に帰路についた。そして帰り道大変な場面に立ち会ってしまった。小さな子猫が、野犬に囲まれていた。この辺りは山近にあり、野犬注意の看板も立っている。放っておくことなんてできない。けど、手ぶらに近い状態で野犬に立ち向かう勇気はない。そんな時ポケットを探って取り出したのは一つの丸い石だった。さっきなにげなく拾った石だ。これに賭けるしかない。今はこれが【たった一つの希望】だ。 そして昔父親に水切りで教わったことを思い出しながら、野犬の後ろにある気に向かって石を投げる。コンっと音がなり、野犬の視線が俺を捉えた。一瞬怯みそうになるが、腕を広げて「うぉぉぉー」とありたっけの大声を出した。すると野犬たちは驚いたようで、逃げていった。 子猫に近寄ると傷だらけでぶるぶると震えている。ひどい怪我だと考え、抱っこしようと上から手を伸ばしたが、子猫は「シャー」と毛を逆立て警戒していた。一瞬びっくりしたが、「あんな怖い目にあったんだ、仕方ないよな」と下からゆっくり手を伸ばした。無理に抱っこしようとはせず、様子を見た。すると恐る恐る俺の手の匂いを嗅ぎ、指先をペロッと舐めた。そしてゆっくり抱き上げ、家に連れて帰り簡単な手当てをした。すぐに近くの動物病院に連れていき、子猫は元気を取り戻した。大学の夏休みが終わる前に子猫は実家へ預け、一度東京へ戻った。
あれから時間が過ぎ、お正月に帰省した。あの時の子猫は少し大きくなり、元気そうだった。子猫を拾って落ち着いた時に家族で話し合い、実家で保護する事になった。白や茶色が混ざったような三毛猫模様でメスだった。その時、俺が名前を考えることになり、悩んだ結果、『のぞみ』とつけた。名前を呼ぶと最初は不思議そうだったが、「にゃ~ん」と返事したのが決め手だった。この名前には【俺や家族の希望になってくれますように】という願いを込めた。
のぞみは父がよく座っていた座布団の上でよく眠っているらしい。今ではのぞみは家族の可愛い癒しだ。
俺は忙しい毎日だけど、この出来事から今まで以上に自分の夢に向かって頑張っている。例え難しい夢だって、俺にとっての【たった一つの希望】を持って歩いていきたい…

3/1/2024, 11:22:58 AM

目の前の皿に置かれた肉を貪り食うように欲望は衝動的に発生し、底なしである。人間の欲望は食欲、性欲、金銭欲などたくさんある。人はそれらの欲求と上手く付き合いながら生きているのである。人間の一番大きな欲望は生きたいという欲ではないだろうか…

2/29/2024, 2:15:13 PM

列車に乗って旅へ出る
最寄り駅から列車に乗って少し離れた場所へ足を運んだ。特に目的があったわけじゃない。見たことない景色、初めて嗅ぐ匂い、初めて耳に残る自然の音など… 五感による初めての感覚を一つでも得るために本当になにげなく、旅へ出た。今日はどんな発見があるだろうか?列車を降り、高鳴る心臓の音を聴きながら一歩を踏み出した