【言い出せなかった「」】
ごめんなさい。言い出せなかったの。あなたがかばってくれたから。
何か頼んだわけでもないのに、わたしはあなたに何もしてあげられてないのに、あなたはわたしをかばってくれた。いつか言ってた「君の為なら何でもできるよ」を証明するみたいに。
わたしはそれに甘えたの。あなたがわたしのためにやってくれているのに、台無しにするのはいけないわ、って自分にたくさん言い聞かせて。
ついにわたしは言い出さなかった。
そして、あなたは今日、わたしの代わりに罰をうけることになった。もう二度と、あなたとわたしが会うことはない。
ああ、ごめんなさい。わたしったら、今になって後悔してるの。
わたし、やっぱり言い出せばよかったわ。
「あの子はわたしが殺しました」って。
【きっと忘れない】
私の中にいるあなたの、表情や声や仕草がおぼろげになっても、私はきっと忘れない。
あなたが私を愛してくれたこと。
私があなたを愛していること。
遠くへ逝ってしまったあなたを、思うことはやめたくない。
たまに名前を呼びたい。
返事は返ってこないってわかってる。
それでも、どこかであなたが聞いてくれてるって、信じたいから、私は呼ぶよ。
ねえ、あなた。
愛してくれてありがとう。
大好き。愛してるよ。
【なぜ泣くの?と聞かれたから】
「なぜ泣くの?」とあなたに聞かれたから、
私は「泣いてないわ」って答えたの。
だって、涙なんて一筋も出ちゃいないじゃない。
どうして泣いてるなんてあなたは思ったのかしら。
不思議で不愉快だわ。
そしたらあなたは「強がらないで。話聞くよ」って言ってきた。
はあ?何言ってるのかしら。
私、強がってなんかないわ。
だって、これっぽっちも悲しくないもの。
私は平気。平気なのよ。
だから、その心配そうな優しい顔をやめてよ。
頭を撫でるのもよして。
なぜだか寄りかかりたくなっちゃうから、お願いだから、やめて。
私、一人で立てる女でいたいのよ。
だから、ねえってば。
【泡になりたい】
あたしはブクブクのあわのおふろが大すき。
バシャバシャ手で水をたたけば、あわがいっぱいあらわれて、ふわふわと水の上をおよぐ。
おかあさんが、水の上のあわをこんもりすくって、あたしの手にのせてくれる。
あたしはそれをおもいっきりバッて上へなげてみた。そしたら、おっきなあわのかたまりはふわっとすぐに水の上におちて、そのあとに小さなあわがふわふわと空中をおどった。
ふわふわおよいで、ふわふわおどって。
あわってなんだかたのしそう。
「あたしもあわになってみたぁい!きっとたのしいよ!」
あたしがいったら、おかあさんはフフってわらって、
「確かに楽しいかもしれないわね。でもお母さん、あなたが泡になって人魚姫みたいに消えちゃったら悲しいわ」
って言って、あたしをぎゅってしてくれた。
そっか、あわになったらいつかきえちゃうんだ。
それはやだな。だって、こうやっておかあさんとぎゅってできなくなっちゃうもん。
「じゃああわになるのやめる!」
あたしがげんきにいうと、おかあさんはまたわらって、あわあわのあたしのあたまをやさしくなでてくれた。
【ただいま、夏。】
これをすると夏が始まったなって思うもの、みんなはあるんだろうか。
私にはある。
推しが毎年8月の最初の土日に同じ会場で開催してる野外ライブ。これに参加すると、夏が始まった感じがする。
今年もいつもの会場の前に立って「ただいま」って心の中で呟く。
入場して座席に座ると、吹き抜ける風と虫の声。野外ならではの、自然の演出。
始まったライブで、推しの歌はやっぱり最高で。会場は盛り上がってすごく熱くて。
今年もまたこの場所に、この熱い夏の日に帰ってきたんだって、思った。
ただいま、夏。
また暑くて熱い思い出を、たくさんちょうだいね。