前日書けなかった分と合わせて投稿します
(星明かり)
君は、星が好きだった。特に星座が好きで、夜空を見上げては指差して、俺に『あれが〇〇座だよ』なんて教えてくれた。星座の物語もよく聞かせてくれた。
俺は星座をなかなか覚えられず、今何も見ずに分かるのはオリオン座くらいのものだけれども、君が星座のことを楽しげに語る姿がとても好きで、君の話は何だって楽しく聞けた。
そんな君が星になって10年。最初は悲しくて見上げられなかった星空も、今では見上げられるようになった。君が語った星座の物語のように、君がそこにいる気がして、星空を見上げるのは前よりも好きになった。
今日は新月。いつもより輝く星明かり。いっそう君の光を感じる。
君を喪った傷は簡単には癒えてくれなくて、今も心の穴は埋まらないけれど、それでも俺は生きているよ。俺はここにいるよ。
そんな想いを込めながら、星明かりへと手を伸ばした。
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(影絵)
昔、親戚の家に行った時に、知らないお兄さんに影絵を教えてもらったことがある。あの人はたぶん、親戚のお兄ちゃんのお友達とかだったんだと思うけれど、それ以来会っていない。シュッとして、何だかかっこいいお兄さんだったのを覚えている。
俺はお兄さんほど上手くできなくて、何度も何度も教えてもらった。それに根気よく付き合ってくれたのだから、お兄さんはとてもいい人だったのだろう。
強い陽射しの中、すっと手を動かして地面に影絵を作ってみる。いつかの日にお兄さんが作ってくれた影絵には遠く及ばないクオリティだ。言われれば何の動物かギリギリわかる、という程度の。あのお兄さんはもっと綺麗にハッキリ何の動物だかわかる影絵を作ってたのになあ。大人になった俺は、悲しいことに未だに不器用で、こういうことは苦手なままなのだ。
俺もシュッとしたかっこいいお兄さんになりたかったのになあ、と地面に映った歪な影絵を見て、俺は思った。
物語の始まりって言えば、『常識がひっくり返る』とか『日常が非日常に塗り替えられる』とか、何か劇的なものを想像しがちだけど、私たちの人生に潜む物語の始まりは、日常の流れの中ですーっと自然に起こってることなのかもしれない。
例えば、恋物語によくある始まりには、一目惚れだったり、相手に何かから助けてもらったり、大きなイベントが起こる。でも、現実ではそんな大きなきっかけなんてなくて、気づいたら好きだった、ってことがよくある。人生を変える物事の始まりは、意外と些細で何気ない日常の中にあるんだろう。
今も気づいていないだけで、物語の始まりの中にいるのかもしれない。そう思うと、ちょっと人生が楽しくなる気がするんだ。
何の言葉もないけれど、その瞳が雄弁に訴えてくる。
その瞳の奥の静かな情熱が、確かに私を求めているのがわかるから。
だから、私は貴方から逃れられない。
私はきっと、一生貴方の熱に囚われたまま、共に身を焦がす運命なのね。
遠くの声 後日書きます
春恋 後日書きます