どうすればいいかわからない。
ごはんが食べられない。
本当に体調が悪い時にどうするべきか、どうあるべきかを教えてくれる創作物が見たい。
死なないけど慢性的にずっと苦しくて、薬を飲みまくらなければならなくて、その薬の副作用と薬を飲んでも治らない症状に苦しむ。
自分の血!を!毎日見る!外に出てもまぶしいだけで、歩いていると自分の惨めさを感じて、飯を食べに行っても全然満足に食べられない。
好きなものが食べられない。
お寿司が食べたい。卵かけご飯が食べたい。とろとろの卵に包まれたオムライスが食べたい。
卵!
自己憐憫に沈みすぎだと思っている。
健全に生きたいと思っている。
しかし体自体が不健康である時にどのようにして健全な精神を保てばいいのかわからない。
簡単なのだろうか。
みんなは上手くできるのだろうか。
僕が努力不足なだけなのだろうか。
問題を清算すべきだ、できるところからやっていくべきだ。
だから薬を飲んでいる。ベッドで寝ている。お腹が痛くなったらトイレに行って、血を見て、手を洗っている。
他に何が出来る?こうして良くなっていくのを待つ?僕の青春。僕の十代。悪いことを考えない方が良い。病は気から。しかし、不公平だと感じる。しかし、それを倫理的に覆すことが僕にはできる。そのことについて納得することもできる。
ただやりたくないだけだ。つまり僕は今、自己憐憫に浸っていたいだけなのだろう。
恋は知らない相手への心。
愛はよく知る相手への心。
「さよならできるならしたい。
生まれ変わりたい」
その言葉は、耳へぬるりと滑り込む。
頭蓋内をカラスのように飛び回り、やがて頭の裏に爪を立てた。
その爪は骨のドームにめり込む。そのせいだ。
いくら頭を振っても、その言葉は、鉛筆に漂う鉛筆の匂いそっくりにそこにある。
俺は、なんとか言った。
「そんなこと、言うなよ」
……やはり、という言葉も言うべきではなかったかもしれない。
誰も、湧いて出る唾と言葉を同じに見ていない。
“さよならできるならしたい”?なんて深い言葉なんだ、そこに至るまでの過程と、ここに至った理由をよく考えるべきではなかったのか。
などと今さら思い詰めていたって仕方がなかった。
なぜなら俺はもうあの言葉のすべてを“そんなこと”と言ってしまったのだ。
やはり、唾と言葉は同じかもしれない。
ベッドの友人は、三秒かけて胸の空気を抜ききった。
「……なんだよ。君から聞いたくせに」
そしてまた吸う。
息をすることさえも、友人には“やらねばならない作業”なのだろう。
俺は自分の膝頭をパンッと叩き、立ち上がった。
「気分転換。しようぜ」
友人の眼は期待の対義語ほど冷たかったが、少なくともこちらは見ている。
俺はそのままの勢いで、言ってしまうことにした。
「部屋にこもってばかりいちゃ、セロトニンも根詰まりするんだぞ。外。出よう」
正直に言うと、セロトニンの根詰まりは俺の脳みそでこそ起こっている。太陽がこのクソ菌ひとつない天井に阻まれているせいではない。
この空気のせいだ。そうだ。
この空気は硬い壁なんて甘い言葉じゃ表せない。それは、俺の身を潰そうと波のようにうねる岩の海だ。
俺は、とにかく一度、いやもう一度、座った。
スツールの足が不安定に揺れる。
この部屋の床は、ビー玉を転がすのにうってつけだった。
友人の顔は、今や窓に向いている。
俺のせいに決まっている。
俺は黙りこくった。岩は俺の腸に、着々とのしかかる。友人の答えをただ待った。
「……君はなんにも分かってないんだ、僕のこと」
見事に腸は破裂を決める。
ああ、来なければよかったかもしれない。
友人の黒髪は、まるで俺に世界の穴を見せているみたいだった。
だってその黒髪は、太陽の光にほんの一本たりとも染まりはせず、ただ黒い光を放っている。
そこからぬらりと現れているうなじは、まるで白蛇だ。頚椎が皮膚から浮いているその不気味なうなじは、俺を振り返る。
頭の重さに今にも折れそうだったが、友人は俺を見た。
その眼には、どんなメークのゾンビより死の気が宿っている。
「君ってわかろうとすらしてないよね。僕のこと。
僕に興味ないんだ。
なのに、なんで会いに来たわけ?」
友人の頬は、唇は、鼻は、痩せこけていた。
俺はようやく唾を飲む。
他人からかけられる唾ほど、嫌なものはない。
「俺とお前がこんな時に、どんなことを話せるか気になったからだ」
俺たちは、人生のうち最も長く、濃密な十年を共にしたはずだった。
しかし結局俺はこう思う。
これでこいつが死んだ時に、俺はきっとそこまで長くは引きずらないだろう。
自分もろとも古雑巾になるまで、重いこいつの死体を引きずらなくて済むだろう。
きっとお前だけが十年、俺の唾に濡れていただけだったのだ。
どうだってよかった。
もうどうだってよかった。
おまえがどうなろうと、俺がどんなであろうと、とにかく俺は大丈夫だった。
おまえとは違って、俺は生きている。
秋になると、決まっていつも胃腸炎にかかる。
何を口に入れても気持ちが悪くなってきて、何を口に入れてもお腹が痛くなる。
トイレにこもって、ヒリつく腹痛に全身を震わす。