『澄んだ瞳』
「ふぁーおはよう」
普段通り変わらない毎日。一人暮らしの朝は、スマホのアラームから1日が始まる。会話がないから独り言でも話す習慣を持とうと、挨拶はしようと決めている。
いつも通りに起床し、トイレに行って洗顔と口を濯いで朝食を準備する。食事は考えるのがめんどくさいため、ルーチンとして決めている。ぼーっとする頭で鏡を見るとあることに気がついた。背後に憑いている女性の瞳が充血していた。
内心、えーどうしたの?悲しいことがあった?と色々と想像するもとりあえず、出勤する時刻が迫ってきていたため、身支度を進める。
『あーぁぅ……あぁ…ぁ』
何か背後霊の女性が言ってくる。
珍しいな普段は静かに憑いてるだけなのに、何か話しかけてくる。
テレビのスイッチを入れて、聴きながら朝食の準備をする。グラノーラをボウルに出し、バナナを剥いてスプーンでカットして入れる。牛乳をかけて、立ちながら台所で食べながら今日の出来事を聴いている。
肩をタップしてくる背後霊。今日は積極的だな。
朝食を食べて、歯磨きをして着替えて仕事用カバンを持って準備完了。
「行ってきまーす」
ばたんと扉を閉め鍵をする。うん、今日もいい天気。腕時計を確認して、電車の時刻表は頭に入っている。余裕をもって間に合うなと思いながらゆっくり歩いて向かう。背後の女性が真正面にやってきて、充血した目に涙を溜めながら何かを訴えている。
うーん、何だろうと考えていたら最寄駅に着いた。普段通りに改札を通り、登りホームで電車を待つ。
「あれ、今日は電車遅れてるのかな?」
周りを見回しても、普段より少ない人数しかホームにいない。背後霊はため息をついたように、訴えることをやめていた。
あっれーと、スマホを確認したら祝日だった。
「あー、思い出した。今日、仕事休みだった」
昨夜、明日は久しぶりの祝日だと背後霊とともに酒盛りし、夜更かしをしていた。背後霊も一緒に夜更かししたため、普段は澄んで綺麗な瞳が充血していた。
「だから普段と違うキミの瞳が気になったんだな。でもって、キミは私が出勤する必要が無いことを伝えてくれていたんだね。ありがとう」
ちょっと遠回りして帰ろうかと背後霊を振り返り、帰路に着く。少しずつ彼女の瞳の充血が引いてきて、普段の澄んだ瞳が私を見て微笑んでいる。