─── 君の奏でる音楽 ───
素晴らしい音楽家
少なくとも私にとってはそうだった
いつも何かを口ずさみ
いつも楽譜と睨めっこ
私に最初に聴かせるのが楽しみだと
嬉しそうに話す笑顔は眩しかった
一緒に過ごした日々は私の大切な宝物
だけど君は遠くへ行ってしまった
私の手元には君が残した
大量の楽譜と楽器がひとつ
思い出に浸りながら慣れない楽器に手を伸ばし
私に聴かせてくれた曲を練習する
君が帰ってきた時に驚かそうと思ってさ
叶うかもわからない私の夢
─── 麦わら帽子 ───
まだまだ手付きがおぼつかない
そりゃそうだ
私だって手が慣れるのに時間がかかった
手が完璧に覚えるようになるには
さらに数年は必要なんだ
簡単じゃないさ
でもやりがいはある
暑い季節になれば
年齢も性別も関係なく
大勢が好んで身につけてくれる
家業を継ぐため修行に励む孫の姿を
自分の若い頃に重ねつつ
私も大麦の稈を編む
─── 終点 ───
どうしてここに居るんだろう
でも仕方がない
何故か来ちゃってるんだし
不思議と怖くはないもんだな
SNSはできるけど
電話は繋がらないし写真を撮っても
ぼやけて何も写らない
ここでは決して飲み食いしてはいけないし
確か人と喋っても駄目なんだっけ
どうやったら帰れるかな
とりあえず降りずにまた寝てみるか
来た時と同じように
きさらぎ駅から逃げ出すために
─── 上手くいかなくたっていい ───
僕は僕の道を行く
信じたこの道を突き進む
誰もが無理だと指差し笑ったこの道を
たとえ教えに背くことだとしても
たとえ君と戦うことになったとしても
たとえ世界を敵に回したとしても
僕は僕の信じたこの道を
しっかり踏み締め歩いてく
光あれ
─── 蝶よ花よ ───
素敵な髪飾りをありがとう
綺麗な着物をありがとう
帯も小物も
わざわざ誂えてくれて
本当に嬉しい
泣かなくてもいいじゃない
少しだけ
ほんの少しだけ遠くへ行くだけ
私の気持ちはずっとお母さんと一緒よ
ごめんなさい
二十歳のお祝い全てを
死装束にしてしまって