─── 最初から決まってた ───
勇者として英才教育を受け
祖国を後にし各国で仲間を集め
魔界にある魔王の城へ行く
お馴染みのストーリーに魔族との対峙
全てに意味が無い事を
初めから知っていた
世界の住人は魔族を憎み
魔界の住人は我々を憎んでいる
姿形は違えど所詮は同じだと
魔王とは戦わなかった
その代わり話し合った
そして表向きの結末
勇者一行が魔王を倒し世界に平和が戻った
国王も知らない我々だけの秘密だ
要するに協定を結んだだけ
お互いにとって悪い話にならないように
私は今日も魔界へ足を運び
魔王とチェスをしながら紅茶を飲んでいる
偉大なる神々と大魔王達の戯れの答えは
私には初めから見えていた
─── 太陽 ───
太陽とは縁のない生活をしている
この街はどういう原理か常に夜なのだ
朝が来て昼になっても太陽は昇ってこない
月なら出ているがね
その月も太陽が無いと静かに光らない
と言う事は多少の縁はあるのか
街から出れば太陽が昇り沈むのを見られるが
生憎私はこの街が好きでね
余程の用事がない限り外へは行かない
灯りは月明かりと蝋燭で事が足りる
私の研究は勿論
料理も読書も問題なくできるし
この街の婦人方は編み物や縫い物も得意ときた
外が暗いだけで常に静かな街
賑わっていないわけではないんだがな
太陽の代わりに月が常にある街
実に不思議で私には住みやすいところだ
─── 鐘の音 ───
この街で生まれ住んでいる僕達には
特別でも何でもない
街の真ん中にある大きくて真っ白な大聖堂
そこにある鐘を観光客は皆口を揃えて褒める
ただの鐘なのにね
なんなら少しうるさいくらいだ
鐘には一応歴史があって
何百年も前に当時の国王が
愛する王妃に贈った品だとか
そんな昔の鐘が今でも現役なのは
すごい事なんだろうな
普段の手入れの賜物だろうが
街の人々は自分達の生活で忙しい
意識しないと手入れの事なんて頭にないだろう
だって鐘は僕達の生活の一部なのだから
それが無くなるだなんて考えた事もなかった
─── つまらないことでも ───
そのフィルター外してみたらどう
連れに面と向かって突然言われた
なんの事かわからず聞き返すと
いつも退屈そうな顔してる
だから一度そのフィルターを外して
別の角度から見てみたらどうかと思って
君自身の日常をね
いや自分にはこれが普通で当たり前で
まさに日常なんだけど
そう答えると同時に笑いながら連れは立ち上がり
私の手を取り店を飛び出す
とりあえず頭空っぽにして
楽しむ事だけに集中する
じゃ行こうか
言われるがまま
色んな場所へ連れて行かれた
片っ端から遊び尽くす
小さな子供がするような遊びまで
頭を空っぽにして
─── 目が覚めるまでに ───
両親の目と言葉はマジだった
なんでアタシまで行かなきゃいけないの
仕事なんだからパパとママだけでいいじゃん
アタシはグランマの家に行く
てゆかウチじゃなくて他の家にしてよ
仲の良い友達
お気に入りのショップ
いつも可愛く仕上げてくれるサロン
全部手離せってジョーダンきつい
人類の未来や進歩なんて
今日を楽しく生きたいアタシにはカンケーない
マジ無理
散々ケンカして駄々捏ねてみたけどダメだった
結局アタシも行く羽目になっちゃった
コールドスリープが解除されるまで
今の可愛いネイルがもってればいいな