─── 太陽 ───
太陽とは縁のない生活をしている
この街はどういう原理か常に夜なのだ
朝が来て昼になっても太陽は昇ってこない
月なら出ているがね
その月も太陽が無いと静かに光らない
と言う事は多少の縁はあるのか
街から出れば太陽が昇り沈むのを見られるが
生憎私はこの街が好きでね
余程の用事がない限り外へは行かない
灯りは月明かりと蝋燭で事が足りる
私の研究は勿論
料理も読書も問題なくできるし
この街の婦人方は編み物や縫い物も得意ときた
外が暗いだけで常に静かな街
賑わっていないわけではないんだがな
太陽の代わりに月が常にある街
実に不思議で私には住みやすいところだ
─── 鐘の音 ───
この街で生まれ住んでいる僕達には
特別でも何でもない
街の真ん中にある大きくて真っ白な大聖堂
そこにある鐘を観光客は皆口を揃えて褒める
ただの鐘なのにね
なんなら少しうるさいくらいだ
鐘には一応歴史があって
何百年も前に当時の国王が
愛する王妃に贈った品だとか
そんな昔の鐘が今でも現役なのは
すごい事なんだろうな
普段の手入れの賜物だろうが
街の人々は自分達の生活で忙しい
意識しないと手入れの事なんて頭にないだろう
だって鐘は僕達の生活の一部なのだから
それが無くなるだなんて考えた事もなかった
─── つまらないことでも ───
そのフィルター外してみたらどう
連れに面と向かって突然言われた
なんの事かわからず聞き返すと
いつも退屈そうな顔してる
だから一度そのフィルターを外して
別の角度から見てみたらどうかと思って
君自身の日常をね
いや自分にはこれが普通で当たり前で
まさに日常なんだけど
そう答えると同時に笑いながら連れは立ち上がり
私の手を取り店を飛び出す
とりあえず頭空っぽにして
楽しむ事だけに集中する
じゃ行こうか
言われるがまま
色んな場所へ連れて行かれた
片っ端から遊び尽くす
小さな子供がするような遊びまで
頭を空っぽにして
─── 目が覚めるまでに ───
両親の目と言葉はマジだった
なんでアタシまで行かなきゃいけないの
仕事なんだからパパとママだけでいいじゃん
アタシはグランマの家に行く
てゆかウチじゃなくて他の家にしてよ
仲の良い友達
お気に入りのショップ
いつも可愛く仕上げてくれるサロン
全部手離せってジョーダンきつい
人類の未来や進歩なんて
今日を楽しく生きたいアタシにはカンケーない
マジ無理
散々ケンカして駄々捏ねてみたけどダメだった
結局アタシも行く羽目になっちゃった
コールドスリープが解除されるまで
今の可愛いネイルがもってればいいな
─── 病室 ───
ここには色んなこがいる
色んな人が色んな場所から
色んなこを預けにくる
とても腕のいい先生がいるんだって
悪いところをなおしてもらうの
あまりにも沢山いるから
わたしの順番はまだきてない
待ってる時間みんなとお喋りするの
話しかけても返事のない無口なこもいたけど
今日もたのしくお喋りしてたら
静かに部屋の扉がひらいて先生が歩いてくる
わたしは優しく抱きあげられた
やっと順番がきた
今からなおしてもらえるんだ
部屋をでた先生はわたしを見て
なんて素敵なアンティーク人形なの
こんな美しいこを直せるなんて光栄ね
そう言ってわたしをなおしだした
まるで魔法使いみたいに