今日も言えなかった。
口に出来ないなら、手紙にしようと思ったけど書き直し枚数が100を超えたあたりで諦めた。
なんて言えば良いのだろうか。
「あなたが好きです」
ただその一言を言いたいのに、できない。
あなたを目の前にすると、思考は停止して動かなくなってしまうから。
だから、今日も言えなかった。
お題「言葉にできない」
桜吹雪が舞っている
揺れる花びらと共に彼女のことを思い出す
彼女は、私が小学生の時にクラスに転校してきた。季節外れの1月の終わり頃だった。よく転校生は学期初めに合わせるのに、違和感を感じた−−
明るい髪色に可愛らしい顔立ち、日本人離れした姿で皆が見とれていた
私は彼女の目から離せなくなっていた。彼女の目はまるでこっちを見ていない様だったから
転校初日は、皆彼女に話しかけていたがそれも2、3日も経つと無くなっていた。なぜなら、彼女は何も喋らないからだ。先生の問いかけにも、中々答えないのだ。それでも先生は注意しないから、皆彼女に何かある事に気づき話しかけるのを止めたのだ。
そんな時、下校途中に彼女を見かけた。学校近くの公園で、立ち尽くしていた。普段なら見なかった事にしたのにその時私は思わず、
「ねえ、何が見えるの?」
と尋ねていた。そうすると彼女は目を丸くしながら私を見ながら、
「何って、あなたは分かるの?」
「分からないけど、いつも違うとこ見てるよね。まるでこちらの事が見えてないみたいで–– でも、ぼーとしてないし、あなたがこの前窓から見てた所でこの前野良猫死んでたから」
彼女はもしかして見える人なのかと思っていたのだ。なんとなくこちらを見てない目からそう思ってしまい、そのまま伝えてしまった。彼女は少し笑いながら、
「あなたは不気味と思わないの?皆気味悪がったわ。ただ、死んだ人の姿が視えるだけなのに。彼らは何も言わないし、唯の幻。それをそんな目で見ないなんて可笑しいわね」
−−それがきっかけで彼女は私と話すようになった。彼女の目には生者も死者も同時に映る。周囲から気味悪がられるようになった彼女の目は段々生者が分からなくなったらしい。そして、そんな彼女を恐れた親はどこかに行き遠い親戚がいたここに転校して来た事も知った。
ある日彼女は、最初に話した公園の木に人がいる事を教えてくれた。その人は、顔が分からないけど何故か目を離せないらしい。彼女は、私と話すようになってからクラスの人とも少し話せるようになっていたから、なんとなくその桜の木にいる人を見に行かないようにした方が良い気がしてた。あそこには行かない方が良いと言ったが、彼女には届かなかった−−
桜の木が咲いた頃、あの木の近くで彼女は亡くなった。原因不明の心不全だった…
そして、その時に分かったのだ、あの桜の木の下から白骨化した遺体が出てきた。それも1人どころではなく、複数だった為そのまま公園は閉鎖された。
私は彼女が見ていたのは、そこに埋まっていた人ではなくあの桜自身だったのではないだろうか。あの桜の木は毎年綺麗に咲くことで有名だったからーー
今私の目の前に桜の木がある。そして、こちらを見ている人影ー
急に動かなくなる足に、もう逃げる事はできないようだーー
彼女に会えるだろうか…
お題「春爛漫」
どうして分かってくれないんだ
こんなにも君のことを大事にしているのに…
君が酷い目に遭わないよう、いつも見守っているだけなのに
何も間違ってないんだ、なんでそんな目で俺を見る
遠くから聞こえるサイレン--
青い服を着た奴らが何か言ってるけど、もう分からない
君ももう何も喋らない
ただ、目の前が赤くなるだけだ
お題「誰よりも、ずっと」
「ありがとうございます。またご利用くださいませ。」店員の挨拶を聞きながら、俺は店を出た。
久しぶりに来店したが、未だに気恥ずかしいものだ。
紙袋に入れられた物を片手に帰路に立つ。
今日で、あいつと出会ってから15年−−
色々な事があったし、迷惑をかけた事も多々あった。それでも今日という日を迎える事が出来そうだ。あいつの好きなチーズケーキ。毎年あの店で買っている。これからも、よろしく頼むな 素直に口に出せない想いを込めて−−
お題「これからも、ずっと」