あの人は未来が見えていた。
　だからいつも暗い表情をしていた。
　変えられるのは自分の未来だけ。
　誰かの未来なんて変えられない。
　
　

　好きな本は暗い文章で書かれてる。
　その本を教えてくれたのは先生だった。
　先生は夏目漱石が好きで教えてくれた。
　子供の自分に教えるから明るい本だと思った。
　先生は明るい人間だ。
　だからその本を教えてくれたのは意外だった。
　
　
　

　曖昧な空を彼女はいつも晴れと言う。
　僕はいつも曇天だと思う。
　だから僕は彼女に憧れた。
　隣にいると晴れやかな気分になる。
　いつか気持ちを打ち明けようとしたがやめた。
　彼女には明るく生きてほしいから。
　僕の暗いのが邪魔だから。

　

　好き、
　嫌い、
　自分は曖昧だ。
　他の人がどうやって決めているのか分からない。　
　自分の頭が足りないからだろうか。
　特に嫌いな物が分からない。
　それなのに人生は選択の連続だという。
　全ての選択肢に曖昧な答えが欲しい、
　それで、また今日も悩まなければいけない。
　

　彼は一人で飲み屋街に出掛けていった。
　財布だけを持って。
　目的は嫌なことを忘れたい。　
　酒で忘れるわけではないのは知ってる。　　
　悪酔いだ。
　それでも仕事で嫌なことがあると飲み屋街に出掛けていく。
　相談出来る人もいないから。
　一人ぼっちの彼はまた吐くまで飲んだ。