『行かないで』
待って、ちょっと待って?
違うじゃん、私たちいつも一緒って言ったじゃん。
その人誰?新しい友達?私は大学でぼっちだけど。
え?恋人?私たち同い年だよね???恋人なんてできたこと......。
え?バイト始めたの?そんなに稼いでるの?うわぁ、友達と旅行?へぇ、私保護者同伴か修学旅行しか、.........。
それに、どうしても半年以上続かないんだよね。バイトで稼いだお金?貯金だよ。月々の定期代とか、.........うん、まぁおかげで一年くらい働かなくても困らなかったよ。
不思議だよね、私たち、同じ服着て、同じ鞄持って、同じ教室で、同じ黒板で勉強してきたのにさ。
あなたはそんなに遠くに.......。
『開けないLINE』
亡くなった祖母とのライントーク画面。
初めて身近な人が亡くなって、数年経っても未だに実感が湧かない。
元々年に何度かしか会わなかったせいもあるのだろうけど、顔も、声も、はっきりと思い浮かぶので、ちっとも寂しくない。
ただ、その平気さが、トーク画面を見ると崩れてしまう気がして。
と、打っていたら、ふと、あえて開いてみようと思って、開けないLINEを開いてみた。
平気さが崩れることも、寂しさが溢れることもなかった。
頭のずっと奥底にあった、「あぁ、こんな話したなぁ」という記憶が、祖母の快活な返信が、少しギャルっぽい変換が、自然と口角を緩めた。
私はとても大切にされていたんだなぁ、おばあちゃんが大切にしてくれた私を、私も大切にしようと、心が軽くなった。
『上手くいかなくたっていい』
応募ボタンを押した。押してしまった。
もう逃げられない。私はこの夏、大きな一歩を踏み出すのだ。
怖がることはない、どうせ上手くいかない。上手くいかないことが既にわかっているんだから何も気を負うことはない。
軽やかなものだ。丸1年ぶりの社会参加。
右も左もわからぬまま航海に出るのだ。舵を取る技術もなく、地図もなく、ただ風だけを頼りにこことは違うどこかへ向かう。
船に乗り込んだ時点で、この勝負、私の勝ちだ。
『蝶よ花よ』
蝶よ花よと育てられたのに、なんでそんなに歪んじゃったの?
『最初から決まってた』
目を覚ますと、どこまでもただ白い世界にいた。死んだのか。直感的にそう思って、僕は上を見上げた。上も、どこまでも白かった。
とりあえず、歩き始めた。なんとなく左の方に、足を踏み出す。まだこの段階では足ははえている。何をしていたんだっけ、とさっきまでの記憶を探るが、何も浮かんでこない。そういうふうにできているのかもしれない。
しばらく歩くと、トランシーバーが落ちているのが見えた。不思議に思い、近づき、恐る恐る拾い上げて、探る。
【ザザザザッ】
急に雑音が発され、思わず放り投げる。
【こらこら、大事に扱え?替えはないんだぞ】
トランシーバーの向こうから声が聞こえた。床に転がったまま、それは話し続ける。
【もうわかってるんだろう?お前は一生を終えてここにきたんだ。次の段階へ進む時がきたんだよ】
気のせいかと思ったが、どうやらそうではないらしい。この声は、僕の声だ。
「あ、あの、」
【声が遠くて聞こえない】
慌てて拾い上げて、顔に近づける。
「あの、あなたは」
【私が何者かなんて重要なことじゃない。今重要なのはお前が次どういう道を歩むのかを決めることだ】
「あ、ああ、そう、ですか」
なにがどうなんだろう。
【お前は何になりたい?次の世界の話だ】
来世ってそんなに自由に選べるものなのか。なら、僕は前回の選択を心の底から後悔している。
「人間以外なら、なんでもいいです」
【珍しいやつもいたもんだ】
当たりが急に明るくなった。想像していたのと、色々違う。こんなに簡単なものなのか?
【お前の来世は人間だ】
「え?」
え?
「え、え?」
【最初から決まってた。次の世界なんてあるわけないだろう。この世界はもう初めから決まってるんだ。お前はまたお前として生まれて、お前を生きて、お前を死ぬんだ。また、27年後にな】
え??
また、僕が生まれる。