子羊の一眠り

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8/21/2024, 3:18:21 PM

テーマ【鳥のように】
タイトル『青い空と白い花と私』


私は上を見た。


其処には、終わりが見えない『あお』が四方向に広がっていた。


青。蒼。アオ。あお。


雲の『しろ』はなく。烏の『くろ』もなかった。


ただ其処には、果てしない空の『あお』しかなかった。


此れは、快く晴れる暑い夏の日だった。


私は、何時ものように公園に行った。


毎日子供の笑い声で溢れる其処は、今日も何も聞こえなかった。


何時も長らく立ち話をしている近所のおばさんや白熱なカードバトルをしている学生達は、また誰もいなかった。


こんなにも良い天気なのに、何で誰もいないんだろう……あ。もしかして、隣の町に祭りが開催してるから?それとも、1ヶ月に一回に行っている地域活動に全員が参加ちゃったかなぁ?


うーん……やっぱり、どんなに考えても私には分かんないや。ま、ほっとこー。


その内に人は集まってくるだろう。それに、もしかしたら、私がたまたま人のいない時間帯に来ちゃっただけかもしれないもんね(笑)


私は能天気にそう思いながら、公園の奥に立っている1本の巨大木に近付いて、その大きくて広い幹に手を着く。


此処は、私の特等席。


私が気に入ってる場所。
私が一番落ち着く場所。
私が自由になれる場所。


何よりも、私が唯一夢を見る事を許される場所。


ズキンッ。


突然、頭が痛くなった。でも、私は気にしない。


だって、無防備で長時間太陽の下に居れば、誰だって頭痛の一つや二つになるに決まっているはずだ……。


私は、幹に着いている手を横にゆっくり滑らしながら、何時も座っている定位置までほんの少し歩いて、そして瞬時に止まった。


下を見ると、案の定しっかりと其処には一輪の花が置かれていた。


また、今日もか……。


私は溜め息を吐きながら、その一輪の花に手を伸ばした。


此れで何回目だろう。毎日私の特等席に花を置かれている事を見るのは。


何度目だろう。その花達を拾って重くて長い溜め息を吐きながら保管場所で困るのは。


前々回は、鮮やかな赤色の花だった。前回は、淡いピンク色の花だった。今回は、美しい白色の花だった。


私は、今までの花を思い出しながら、白い花を見つめた。


うん。今回もとても綺麗な花。前回の薄ピンク色の花も好きだった……でもやっぱり、色の着いた花より、何の色にも染まらない白色の花の方が私の性に合ってる。


だから、私は自分の名前を好きになれない。だって、私自身は白を好んでいるのに、名前には色が着いているから。


しかも、最悪な事に、その色は私と凄く相性が良いと来た。


嫌だなぁ……どうせ、名前を着けるなら白が付いた名前であって欲しかった。


でも、実は意外と嫌いじゃないんだよね……だって、私の名前に込められた意味と思いは、まさに今の私に成り立っているんだ。


私は、眺めていた白い花から視点をずらして、さっきまであった花の所を見た。


やっぱり、今回も花以外は何もないのか……せめて手紙か何かを置いて欲しかったなぁ。そうすれば、今すぐに花の事を問い出すのに。


皆も考えてみて。誕生日でもないのに花が置かれているよ?しかも、ご丁寧に毎日よ?


此れはただ事じゃないに決まっているじゃない


どうやら、私の花の送り主は超の照れ屋さんか、最高の瞬間で甘い告白をする機会を計る隠密に潜むキザな人っぽい。


私は、またまた溜め息を吐いた。


正直に言って、どっちでも良い。兎に角、良い加減に姿を現して此の茶番を終わらして欲しいと思っている。


だって、私のお気に入りの場所に、私の世界に侵害してるんだよ?


確かにロマンチックだけども……でも別に、私が毎回必ず座っている場所じゃなくても、木の枝に吊るしたり、座ってる場所の隣か、其処から見える場所に置いても良くない?


わざわざ私が座っている場所に置かなくても良くない???(←大事だからもう一回言うね)


私は其処まで考えて、ようやく定位置に腰を下ろした。


やっぱり、此処から見る景色は別物だ。何時もより世界が小さく見えてしまうから。


でも、私は知ってる。こうして、座ってる前を見てるから世界は小さくなってしまう。


だから、上を見上げる。


小さくて狭い世界を見たくて毎日此の木の下に来ているんじゃない。私は、大きくて広い世界を味わいたくて毎日通っているんだよ。


私は上を見ながら微笑んだ。


憧れて、夢を見て、必死に求める世界は今目に映っている……そう、空よ。


此れが私が毎日求めているビッグでミラクルな世界。


何故か空を見上げると、肩の荷や心の重りが軽くなる。


地面に張り付く足は、浮いている感覚にさせる。


でも、一番の理由は、やっぱり飛んでいる鳥を見る事だね。


此処は田舎で、空の見晴らしはとても良い。しかも、大自然が広がっていて周りも建物が凄く少ないから、尚更見えやすい。


つまり、広大な青い空を自由に楽しそうに羽ばたく鳥達が、とても良く見えるんだ。


だから、私は毎回此処に来て座っているんだ。


私は鳥が大好き。何十枚の羽を並べた翼を大きく広げて、力強くだけど美しく羽ばたかせてる彼らを見るのが好きで、憧れで、羨ましい。


めっちゃ小さかった時、私はお母さんにこう言った事があるんだ。


わたしは、しょうらい大きなつばさで大空を飛んでお月さまに行きたい!って。


それくらい私は夢中だった。というか、本気だった。いや、今でもそう変わらないかも。


何故なら今でも鳥のように、大きくて力強いけど美しい羽の翼を広げて、大空を羽ばたかして、空より上にある月まで飛んで行きたいと思っているから。


それに私はその事実を証明しちゃってる。


こうして巨大木の下に座って、飛んでいる鳥を眺めて、私の最大の夢について振り返ってる時点でもう全てが成り立っている。


これぞ動かぬ証拠と言うんのでしょうね。


私は大人になった今でも、全くあの頃と変わってない自分に嬉し半分安心感を抱いた。


涼しい夏の風は吹いた。木の葉や私の髪、ドレスの裾をそれに優しく揺らされる。


本当は、今日は家族と一緒に此の木の下に集まって、楽しく賑やかにピクニックしている筈だったんだ。


だけど、それは叶いそうにないね。特に今日は。


だって、皆はピクニックどころじゃなかったんだ。


お母さんは今でも泣きそうな目で、悲しい表情で、兎に角家事していた。お父さんは辛そうな目付きで、必死に書斎の机に頭を抱えて何かをブツブツを呟いていた。弟に関しては、静かにじっと布団の中に丸まっていた。


一応、弟の様子を伺おうと、布団の中を覗き込もうとしたよ?でも、あっちは頑なに拒み続けた。


そんな状況を何度も繰り返していから、私は仕方がなく自分から潔く諦める事に至った。


もう!家族揃って全員をローテンションになっちゃって……見てるこっちまで気分が落ちちゃうよ。


その行為で、私は外に出ていっちゃったよ?そんなしんみりした空気に居たくなくて。皆の悲しい表情を見たくなくて、家から抜け出してきたんだよ?


"本当は今でも家族の傍に居たいのに……"


私はそう心の願いを口にして、そっと目を閉じた。


どれくらい長く目を閉じていたか分からない。けど、さっきまであの青い空の上にいた眩しい太陽はいなくなっていた。

そして、其れと入れ替わる様に、いつの間にか闇色に染まり切った空の上に淡淡しく輝く月の姿があった。

私は、其の空をぼーと眺め続けていた。すると、突然自分の頭を強く抱えた。

ズキンッ。ズキンッ。ズキンッ。

頭、痛い。凄く、痛い……!

昼間と全く同じ痛みが、波の様に何度も何度も頭に走った。




※只今書き途中の話です。続きはお待ち下さい。