私は歩く。
特に宛はない。
何で歩くかって?
私が分かるはず無いだろう。
まずまず、行き先がないと言っているだろう。
それに私は頭が悪いのだ。
あ、でも此れだけは分かるぞ。
幼稚園児でも簡単に分かる
ここが何処か。
ここは地獄だ。
私は今は地獄にいるのだ。
地獄を彷徨っている
君が思い浮かべる地獄はどんなのなんか知るはずないが、確かにここは地獄。
いや、地獄の中でも最深層だ。
何故そんなに地獄に居ると言い張って居るのに
私はこんな冷静で、君に状況を伝えて居るか?
…私も詳しいことは分からないが、
昔、古い本に書いてあったのを思い出した
「人間とは、生死 彷徨う時、この世で一番賢い生き物となるのだ」
人間って死ぬ時、周りの人間よりも一番冷静に
判断、出来るんだとよ。
格好よく昔、とか言ってみたが、
正直マジで意味が分からん。
その本は一様子供用の字が大きく書かれている奴なのだが、翻訳やなんやで意味不明だ。
キリストとか?全然信じないって言ってるのに
キリスト好きのせんこうがよう……
う゛う゛ううん。
私は話し出すと長いんだ。気付いただけ許してくれ。
そんな事よりも私はこの地獄から抜け出したいのだが……すぐには無理だな。これは
とゆうか、さっきの本、間違えるんじゃないか?
私はこうやって冒頭で言った通り元気に歩いてる。
すぐに死ぬなんて思わない。
これも死に際の判断障害みたいな奴なのだろうか。
あ、水がある。
え?何で?
この際言ってしまうが、
冒頭から大袈裟に言っていた地獄とは、砂漠である。最後の最期に実は砂漠でしたー!みたいなの
やろうと思ってたのに。
てか本当に何で水があるの?
え?おあしす?
何それ?
え?そんなの小学6年生でも知ってる?
うるさい。私は頭が悪いと言ってるだろう。
とりあえず、喉カラカラだから水飲もう。
汚いかもだが、こればっかりは喉カラカラで死ぬのは嫌だ!
今日も上司が叱ってきた。
しかも凄い理不尽に
同じグループの奴がミスしたからだって
俺は何もしてないのに何故怒られるか
ハァ……、
こんな事を考えていたらきりがない
可愛い子供と妻達の事を考える。
…早く帰ろう。
子供と妻だけが俺の支えだ
疲れ切っている、自分の体に鞭を打ち、
急いで帰る。と言っても家もすぐそこ。
自分の家が見える。車に乗ってる時に取り出した暖かい鍵を刺す。
電気の付いた明るい部屋に家族が自分を待っていると思うと、微笑まずにはいられない。
扉を開け、大声で「ただいまー!!」と声を掛ける
すると子供達が玄関まで走ってやって来る
後から妻が子供達を見守るようにやって来て、俺に優しい声で
「お帰りなさい。」と言ってくれる。
もうそれは1年前の話だ。
妻と子供は死んだ
丁度、1年前の12月25日のクリスマス。
俺がケーキ屋に、クリスマスケーキを取りに行っている時だった。
1本の電話がきた。′′妻と子供が亡くなった′′
と。その言葉は本当に印象強く、1年経った今でも勝手に脳内で再生される。
子供たちがわくわくしながら、ラッピングをはいで、やったー!!欲しかった奴だ!
とあまりにも喜ぶのでクリスマスは好きだった。
だが、今年は違う。いや、今年からは。か…
俺が死ねば良かったのに。何故 俺が生きているのだ。俺の家を強盗して俺の妻を、俺の子供達を滅多刺しした奴を殺してやりたい。
だがもう警察に捕まり、終身刑を言い渡されたそうだ。
俺の妻と子供は怯えながら、痛く、苦しい思いをして殺されたのに、
そいつはのうのうと生きているのだ。
鞄から冷たい金属の鍵を取り出し、鍵を刺す。
虚しくなるだけだと分かっているのに、
ただいまと呟く
暗く、クーラーの音すら聞こえない、静かで、大きい家。誰もいない。
散らかった廊下を歩き、机の前に座る。
ふと、子供の喜ぶ顔を見て妻と顔を見合わせて微笑んだ時の光景を思い出し、
ほとんど空席の、無駄に大きい机を思いっきり叩いた。
「バン!!!!」
家中にうるさいのに、静かな、悲しい音が鳴り響いた。
~静寂に包まれた部屋~