5/27/2023, 2:59:36 PM
「大丈夫ですよ。」
コノセはことり、と静かに笛を置き、膝をついて真っ直ぐにその魂を見つめた。
鎮魂の言葉が紡がれようとしている。
空気に凛と響くこの声が、オリヤは好きだった。
「天国も地獄も、この現世にしかありません。そして、あなたの居るべき場所も。」
そう、時に残酷に聞こえるかもしれないけど、ひとの居場所は現世のみ。
別世界は存在しないか、存在しても決して行くことはできない。
たとえ、死んでも。
「ひとは生きてこの現世に意思を為して形と成し、死して生者の心に其の場所を移し、言霊を借りてやがて緩やかに大気に、大地に解ける。」
この世で生きてこの世で死に、この世に解けるひとの摂理。
「だからあなたの言うような、死者の逝く国は無いんです。」
悲しむような、悼むような、それでいて澄んで惑いのない、微かな笑みがコノセの口元に浮かぶ。
「わたしたちがあなたを、真の死へとお送りします。」
-天国と地獄-