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9/18/2024, 11:13:01 AM

10年前に買ったカーテンとベット。そして小さいテーブルが私の部屋にある全てだ。

私の部屋は3畳半。田舎の団地の、1番寂れたところにある古びたマンションの1kだ。
家賃はなんと月9000円。とんでもなく安いが、それでも私の生活はギリギリだった。

私の収入は、手取り月16万。田舎で生活するには十分なだけあるが、私には多額の借金があった。
高校生のとき、両親が事故で他界し、引き取ってくれる親族が居ないばかりか、親族は皆両親を軽蔑しており、1人残された私にとんでもないコトを言ってきた。


「そんなに悲しいなら、あの窓から飛び降りたら?笑」


胸が張り裂けそうだった。自分は何も悪いことをしていないのに。私には関係ないはずなのに。誰かにそう訴えたかった。でも、話を聞いてくれる両親は、もう、いなかった。

私は生きる気力が無くなった。
田舎の一軒家である家に帰り、私は兄弟がいなかったため、両親がいないと、家はシン…と静まり返っていた。
言葉にできないような空虚感と切迫感。そして親族への憎悪。色んな感情が私の中を駆け巡り、私は

「そうだ。飛び降りよう。」

と思った。

家の二階にある自室のカーテンを開き、窓を開けた。
鈴虫が鳴く音と、ぬるい初秋の風を感じた。
身を乗り出し、地面を見つめた。これじゃ死ねないな。と思った。でも、そんなことはどうでもよかった。この苦しみを一瞬でもいいから消してしまいたかった。
だから、飛び降りた。

頭から落下し、首の骨は折れなかったが、頬骨が歪み、酷いアザができ、歯が何本かダメになってしまった。

怪我をしても、駆けつけてくれる人がいなかったので、ズキズキとした痛みに耐え、動けるようになった頃、立ち上がって部屋に戻り、ベットに横になった。
病院には行こうと思わなかった。全部がどうでもよかった。しばらく両親と親族の軽蔑した顔が脳裏に浮かんで、寝付けなかった。


誰かが玄関を叩く音が聞こえて、目が覚めた。
ぼーっとしながら玄関のドアを開けると、そこには親族がいた。例の言葉を言った人ではなかったが、何も言わずに見て見ぬふりをしていたヤツだった。
ソイツは、私の顔を見るなりギョッとした顔をして、ソレ、どうしたの。と聞いてきた。
私は、ぶつけました。とだけ言った。
ソイツは病院に連れていくから、車に乗れ、と言った。気が進まないと言ったら、ものすごい剣幕で怒鳴るので、仕方なく乗ってやった。

病院に行く途中、なんの要件でうちに来たのか、尋ねた。
ソイツは、あんたの両親のツケを払ってもらいに来た。と言った。
うちの両親は、この女に多額の借金をしているらしかった。どこにそんなに証拠があるのか。と主張したが、両親がやっていた企業が倒産し、借金を抱えた挙句、同時に手を出し、取り返しのつかないことになっているのは知っていた。この女は、借金の保証人だったらしい。
保証人なら自分で払え、そっちの責任だと言ったのだが。
何年かかってもいいから、借金を返済してくれるなら、就職するまで面倒を見てやると言われ。
私は頷くしかなかった。

病院で手当をしてもらい。医師にどうやったらこんな怪我ができるのか。と尋ねられたが、またしても私は、ぶつけました。とだけ答えた。
手術が必要なので、暫く通院することになった。
診察料などは、女が払ってくれた。

家、車など、両親が持っていた財産は、全て売り払い、そのお金は女のものになった。

私は、格安アパートに住むことになった。借金7000万を返済するまで、ここで暮らし続けなければならないそうだ。
生命を維持するのに必要な生活費、月3万だけ渡され、高校を卒業して事務員として就職するまで、女から金を貰い、就職してからは、収入の全てを女に渡し、その中から月3万を女から受け取って生活していた。

そんな生活も、もう10年だ。
私は28になり、女は60になった。
この生活は、女が死ぬまで続くらしかった。
女は、結婚して旦那に金を払って貰え、と言っていたが、ワケアリで容姿も優れてなく、くたびれていて愛想もない自分を貰ってくれる人など居ないだろう。



未来のことを考えた。

これから先の人生のことを考えた。

何度考えても、何一ついい事が思い浮かばなかった。



給料日、いつも通り女から3万を受け取り、私はその3万で、東京に行った。電車を使う余裕はなかったので、夜間バスで。

バスの窓から、外を眺めた。真っ暗で、よく見えなかった。鈴虫の声だけが聞こえた。

東京駅に着いたが、私には行くあてなどなかった。

コンビニでおにぎりを3つ買って、ふらふらと歩いた。方向や、目的地など決めず、ただ気の赴くままに。場所の特定を避けるため、スマホを持ってきていなかったので、自分が今どこにいるのか、調べることもできなかった。

ビルの上の方の階にある、ネットカフェで寝ることにした。

今日寝泊まりしたら、もう、お金は全て尽きてしまう。
おにぎりを2つ食べた。涙が出てきた。

窓から、外を眺めた。ビルが大量に並んでおり、耳を澄ますと、ごちゃごちゃした雑音が聞こえた。
こんなに沢山人がいたら、自分の存在なんて、ちっぽけで、いてもいなくても大したことではないと思った。

そう思うと、全部がどうでも良くなった。

残り1つのおにぎりを食べながら、屋上に向かった。







今度は、地面が遠かった。