天気や空はまるで自分の心のようだと思う。
晴れたり、曇ったり、雨が降ったり。
今日の気分は曇り。
入道雲でも出てるのでしょうか、激しい雨が降り出しそうな心模様です。
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「どうしたの?」
部屋のクッションに顔をうずめている私に、あまり興味がなさそうな君が話しかけてくる。
ああ、今はそっとしておいてほしいのに。
一緒に暮らし始めて3ヶ月、同棲生活というものはなかなか慣れない。
「なんでも、ない」
絞り出すような声で君に答えた。
「そう」
君はそう返事をして、本のページをめくりだす。
やっぱり、興味無いんじゃん。
昨日から体調が少し悪くて、今日は仕事も休んだ。
丁度、君の休日が重なってしまったんだよな。
近ごろ素っ気なさ過ぎる君と長時間過ごすことが苦手な私からすれば、休んだ意味があるのかわからない。
ふたりで暮らすには狭い、1LDKの賃貸マンションだから、自分の空間を持つことも難しい。
君はそれすら気にしていないようだけれど。
でも少ない稼ぎの中からだとこの間取りぐらいしか借りることもできなかった。
君も私もなんとなくで同棲することにした。
もちろんそこに愛はあったはず。
最初は上手くいってたのに、ね。
なんだか段々泣けてきてしまった。
調子が悪いと心も弱ると言うけれど、そんなに弱かったっけな。
なのに涙がぽろぽろ、とめどなく流れ落ちてゆく。
君が私に好きだと言ってくれなくなったから。
最初はそんな理由だったっけ。
そこから徐々にふたりの間でズレを感じるようになって。
「何?なんで泣いてんの?」
泣き始めた私に少しため息を吐きながら、本を置いた君がこちらを見ていた。
「なんでも、」
「無いわけないでしょ」
私の言葉を遮って、君が私の頭に手を乗せる。
いつぶりだっけなあ、君から私に触れるのは。
やばい、余計に泣けてきた。
「ごめん、すぐ泣き止むから」
曇天から一転、私は今どしゃぶりだ。
雷すら鳴り出しそうなくらいに。
「別にいいよ。泣き止まなくて」
そのまま君は私を撫でる。
優しく、とても、優しく。
「なんで、撫でてくれるの?」
思わず口から言葉がこぼれた。
「なんでって?」
「最近、話すことも触れることも減ってた、から」
嗚咽混じりに話すの、きついなあ。
どこかで冷静な自分と、君に言葉を伝えることがこわいと恐れている自分が背中合わせになる。
「そんな気は無かったんだけど、気にしてた?」
私の心はいざ知らず。
そんな気は無かったなんて言い出した。
「え?だってもうしばらくまともに話せてないよ?」
「ごめん、最近仕事優先してたせい、かも?」
君は少し戸惑いながら言う。
これは本当に困っているときの表情だ。
「なにそれ、私のことに興味無いんじゃって…」
「そんなわけない。今も変に読書に集中してたから、気づくの遅れてごめん。」
__普段泣かない人なのに、こんな風に泣かせてごめん。
君は続けてそう言った。
「私、君に嫌われて、ない?」
私も恐る恐る聞いてみる。
聞くこともまだ、少しこわかった。
「愛してる」
君は即答する。
照れているのか、顔を背けて。
でも頭から手は離さないまま。
えーと、つまりは私の思い込み?
仕事優先は確かに前に聞いたような気もする。
この頃は繁忙期だって、言ってた、よね…。
「え、あ、私もしかしなくても君を勘違いしてた」
「へ?」
「君が私を避けてると勝手に思ってました…」
「ああ、避けてません」
そう言って君が小さく笑った。
なんならまだにやにやしてる。
「ほんっとにごめん!」
土下座でもする勢いで謝り倒す。
自分でも呆れるくらい君のこと考えてなかった。
この人は私のことを構わなかったのではなくて、自分の休日を大事にしていただけだったのに。
「大丈夫だから、頭あげるー」
ほっぺたをむにーっと摘まれる。
地味に痛いけど、まだごめんと謝る私に君は言う。
「これからは、また一緒の時間を大切にします」
「ほんと?」
「ほんと、だから謝らないで?」
気持ちに段々晴れ間が見えてきている。
ああ、最近私がどんよりした空な気分だったのは、君との時間が無くて寂しかったからなんだ。
なんて自分勝手なんだろう。
「自分のことしか見えてなくてごめんね、君のことちゃんと考えられていなかった」
「昔っから自分のことしか見えてないことも多いでしょ」
「その通りでございます」
ぐうの音も出ない。
「そんな君も可愛いと、思うよ」
ぎゅっ、と抱きしめられる。
いつの間にか泣き止んでいたのに、また泣けてきてしまうじゃない。
こんな思考がまた自分のことばかりになっているとは気づいてるのに、だめな癖だ。
「たまにはこのまま泣いていてください」
でも今だけは甘えさせてもらってもいいのかな。
「あのね、私も愛してる、よ」
「知ってる」
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曇りのち雨、晴れのち曇り。
そしてまた雨がどしゃぶったりなんかして。
今日も私の心は天気がころころ変わるようです。
(空が晴れたら、君と何をしようか)