優しいあなたが心から笑って息ができる世界を作りたかった。それだけなのに、どうしてこうなってしまったんだろうか。
肩を震わせて泣くあなたを見ている。小さな嗚咽はいつしか号哭に変わって、涙に濡れた瞳が私を睨みつけた。
「どうして、」
私を責める言葉に私は何も言い返せない。選択を間違えた。善悪が簡単にひっくり返るこの世界で私の選択は最悪の結末を生んでしまった。
どうして、なんて私が知りたかった。
ただひとつ確かにわかるのは私とあなたの友情はもう永遠に交わらないこと、それだけだった。
鬱屈とした今日におやすみ。
幸せに満ちた都合のいい私だけの夢の中で
今日もあなたがわらっている。
初恋のうつくしさに勝るものなどない。
今はもう言葉にできない想いを
とうの昔にしんだ恋を
初恋だから、と今でも大切に胸にしまっている。
「あ、」
麗らかな昼下がり、日課の愛犬の散歩をしていたらふとこちらを振り向いた愛犬の鼻に桜の花びらが付いているのに気づいた。一体いつ付けたんだろう。ご機嫌にこちらを見る愛犬のちょっと間抜けた姿に思わず笑みがこぼれる。
「もうすっかり春だねぇ」
先日満開になった桜はいつもの散歩道を華やかに彩る。時折強い風が吹いてその花びらが散るのも風情があって好きだった。
わん、と愛犬が鳴く。この仔は春の散歩が特にお気に入りだ。道端に咲いた植物だったり色々なものに興味が湧くから春の散歩はほかの季節より時間が少しだけ長い。
動物の寿命は人間のそれよりもうんと短いけれど穏やかなこの時間が少しでも長く続けばいいなと思った。愛犬の名前を呼ぶ。
振り向いたその仔の鼻についた桜の花びらがもう一枚増えているのに気づいて私は今度は吹き出すように笑った。
きっと、あなたが隣にいなくても私は生きていけるのです。あなたもそうでしょう。心の隅に空いた小さな穴を見ないふりして生きていく。
それが出来る、前を向いていける。
しかし、ひとりで生きていける私たちが互いに手を取り合って支え合い生きていけるとしたら
もっともっと素敵な人生になると思いませんか。
ひとりで享受できる幸せをそれでも
あなたと分かち合いたい。