「距離ってもんがあるじゃん」
彼は、冷たい目で私に告げた。私の手を振り払って、私を睨みつける。
距離、か。何よそれ。そんなのどうだっていいの。私が良ければ良いの。そうやって生きてきたから。友達にも家族にも恋人にも、距離を考えろって何度も言われた。ごめんなさいなんて言わなかった。言いたくないわよ、ありがとうのあの字も言えない人間に謝る必要なんてない。
距離を置いても、距離を縮ませても怒鳴られた。誰かが失敗するのは私のせい。誰かが成功しても私は知らないふりをされるんだけどね。
本当馬鹿よね、呆れるわぁ。少しは自分のことは自分で始末してよ。誰かの戯言なんて、なんで私が聞かないといけないの。距離を考えるなんて面倒でうんざりだな。本当ため息出ちゃう。人に指図するんなら、自分もちゃんとしろよ。距離を考えるのはあなた達でしょ?
「泣かないで。せっかくのかわいいお顔が台無しよ。」
お母さんのその声は、とても暖かくて、同時に寂しい声だった。
20✖︎✖︎年11月30日、私の母は息を引き取りました。私の目の前で、突然倒れて病院に運ばれる母を見た時は泣かずにはいられませんでした。まだ、クリスマスプレゼント、あげてないのに。これまでの恩も、返してないのに。親孝行、してないのに。
不安で悲しい思いが募って何だか雪のようでした。ごめんなさいも言えない私だったけど、母はどんな時もそばに居てくれた。自分が情けなくって、また泣いてしまった。何か考えようとするたびに涙が溢れて、私の存在意義がなくなったみたいでした。
こんな時、母だったらどうするかな、どうしてくれるかな。一緒に居てくれるだけで嬉しい、幸せになるような人に、私はなれるかな。お母さん、ごめんね、ひどい娘で。何もできなくて、情けなくて。だからさ、遺影の写真くらい、笑顔で居てよ。本当、親子揃って何なんだか、お母さんだって泣いてるじゃん。私も泣かないで頑張るからね。
だから、泣かないでよ。
冬の始まり。
それは何だか寂しい日。
嫌なことも忘れたくなる日。
でも、絶対に忘れちゃいけない日。
たとえ、うまく伝えられなくても。
終わらせないでよ。まだ、ごめんなさいも言ってないのに。ありがとうも伝えてないのに。
「今までありがとう」
そう言って真哉は、この家を出て行った。何が悪かったのか、何を治せばここにいてもらえたのか、何度も何度も考えてたらキリが無くて。
布団に入って泣きじゃくるような生活を繰り返してた。真哉と、撮った写真をずっと眺めて、ごめんなさいの練習をしてた。どうやったら真哉は帰ってくるかな。そう考える日々。
何も言わなかった。真哉はありがとうだけ言って出て行ったから、どうすればいいかわからない。ずっと真哉が帰ってくる方法を考えてる。
だって、終わりにしたくないから、私の恋は終わったんだって思いたくない。ずっと過去に縋ることが醜いことだと分かっていても、真哉に帰ってきて欲しい。その思いは本物で、自分の部屋で毎日叫ぶ。
「終わりにしないでよ!」
愛してる
あぁ、なんて愛おしいんだろう
朽ちることのない素肌
潤った唇
眠そうにあくびをする姿
怒って怒鳴っている姿
全てが愛おしく感じてしまう
どうしてこんなに愛しいのか
昔は大嫌いだったのに