凍てつく星空
本格的な寒さが到来した
キーンと張りつめた大気の中で
星が小さく身震いした
3日前に亡くなったおばちゃんかしら
温めてあげるね
空に向かってハーと長く息を吹きかける
曇りガラス一枚分の温もりは
目の前でふんわり広がり散り散りになった
星空よもっと近づいて
私の息がかかるところまで
寄り添ってギュウしたい
お星になった大切な顔が沢山見えるの今夜は
君と紡ぐ物語
どうしてここに来てるかって?
無趣味だとぼやいたらこんな場があるよって友達が教えてくれたの
まあ自分で言うのもなんだけど飽き性には自信があるんだよね
自信って言葉の使い方が間違ってるって
うんそうかも…でも敢えて使っちゃう
半世紀以上生きてきて99%一週間以内に放り出すのは実証済みだから
今日のお題は 君と紡ぐ物語か
紡ぐ…なが〜い時間かかりそう
物語…絶対無理 プロットは思いついても
伏線回収できずに投げちゃうなきっと
一年前の自分のぼやきが聞こえてきた
そんな私がどうしてここに通い続けているかって?
それはね認知症っぽい恐怖と戦うためによ
最近記憶がとんじゃうことがあってね
私が消えてるのに私は存在してるってどういう事??
その間は君が何食わぬ顔で私を語っているんじゃないかと…でもねまだ疑心暗鬼なんだ
それでここを利用して一日の終わりに私と君の答え合わせをしてるってわけ
君が紡ぐ物語には私の記憶が確かに綴られているか
私の身体が君に乗っ取られないよう毎日見届けるためにね
心の深呼吸
「はい息を深く吸ってー」
「吐いて止める」
私得意なんだ腹式呼吸
技師さんからほめられそう ふふん
キンキングォーン ガガガグワッ
Domeの中は騒がしい
ヘッドホン越しの金属音がまるで工事現場だ
でも騒音を除けば痛くも痒くもない
私?どこで何してるって?
ただDomeのなかで仰向けになってるだけ
輪切り画像撮影してるのよお腹のね
胴体真っ二つどころかいくつ切ってるんだか
つまりMRIの最中よ
脳じゃないってばお腹
なんかね…再検査なんだ
ちょっとだけ心の深呼吸がいるかも今の私
ドキドキ上手くいかない鎮まれ鎮まれこの心臓
妄想おしゃべりでもしてリラックスしなきゃね
ってなわけで…只今心の深呼吸中
時を繋ぐ糸
「もしもーし聞こえた?」
「……」
筒を離して大声で叫ぶ
「おーい糸をピンと張ったままでね
ゆるめちゃダメだよ もう一回」
遠くに小さなOK🙆サインが見える
筒からガサガサ音がする
今だ
「もしもし わるいおばあさんだよ
食べちゃうぞー」
狼の声色で声を張り上げる
「おばあちゃんでしょ?」
意外にも神妙な声が返ってきた
顔が見えなくてドキドキしたのかな
少しくぐもったような孫の声
気が気でなくて糸の向こうへ駆け出した
時を紡ぐ糸より速く
落ち葉の道
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一日お試し無料
危険防止おしゃべりアラーム付きだって
どれどれ試してみようかな
まずは健康 体力 持病を設定
データ入力OK
いそいそとグラスオン
はいはいプラタナス通りへ出ましたよ
歩道一面の落ち葉がキレイ
見とれていたら
「落ち葉の道です」アラームが鳴り喋り始めた
♪滑らないよう足元にご注意下さい♪
メガネくん、ナイスアシスト!
「今週の転倒者数29人」
「滑る確率90%」
リアル情報まで入れてくるんだ
メガネくん、さすが!
次の瞬間目の前が赤く点滅し始めた
⚠︎こちらは通らない方がよいでしょう⚠︎
「引き返してください」
「あなたには杖か付き添いが必要です」
……はっ?
メガネくん、それはないんじゃないの?
せめて、安全のためには引きかえしましょうか
くらい優しく頼むわよ言葉に傷つくことあるし
こっちは人なんだからね
寄り添う気持ちをプラタナスなんちゃって…